「手はきれいですか?」~良好な関係性があれば、子どもの素直さを引き出せる~

子育て 社員教育 経営者の自己研鑽
株式会社育児サポートカスタネット代表取締役 長野 眞弓

良好な関係性があれば、子どもの素直さを引き出せる

「言うことを聞いてくれない」「ついイライラしてしまう」「しっかりした大人に育つか心配」など、なかなか尽きないのが子育ての悩みですが、育児のプロはいかにして子どもにかかわり、
決まりごとを守ってもらったり、常識ある人へと導いていくのか。
子育て支援経験40年の保育園オーナーが、子どもの「やる気」を引き出す秘訣をお伝えします。

「こうでなければいけない」をどれだけ手放せるか

何事にも主体的に取り組み、未来を切り拓いてほしい。子を持つ親なら、誰しもが望むことではないでしょうか。夢や志を持つことは、充実した人生を送る上でとても大切なことですが、そう簡単ではありません。たくさんの方法論が存在しますが、私が最も大切だと感じるのは、「正解を押し付けない」ということです。
例えば、コロナ禍の今は、手をしっかり洗ってほしい時期ですが、「手を洗いなさい」と伝えるのは主体性を育む上では効果的ではありません。なぜなら、正解の押し付けになり、物事を考える機会を奪うからです。また、「手を洗わないあなたは間違っている」というメッセージにもなり、子どもたちは「手を洗わないと怒られる」と恐れを抱きます。恐れは、主体性の大敵で、自信や自尊心を奪い、行動を止めてしまうのです。私たちの保育園では、「手を洗ってください」と伝えており、優秀な職員は「手はきれいですか?」と尋ねています。良好な関係性があれば、「きれいにしたい!」と、自分から洗いに行ってくれます。そうでないこともありますが、子どもたちはコントロールできない前提に立ち、「手がきれいなAさんと、汚いBさんと、どっちが風邪を引きやすいですか?」と聞きます。すると大概の子は、「洗ったほうがいい」と納得し、行動してくれるのです。どうしても手を洗いたくない子がいたら、そーっとおしぼりを渡すようにしています。決して正解は一つでなくても良いのです。

愛とは関係性を優先することである

こうしたコミュニケーションの土台には、良好な関係性が必要です。その信頼関係がなければ、そもそも会話をすることが難しいのです。思い通りに従わせようとするのではなく、より良い関係性のためにできることを精一杯考え、取り組む、それが愛なのだと私は思います。
実は手を洗うのが嫌いな子どもは、手洗いが嫌なのではなく、威圧的・強制的な態度を拒んでいることがほとんどです。実際に、他園から移ってきた子どものなかに、手を洗うことが大嫌いな子がいましたが、ご紹介した声掛けを実践するなかで、手を洗うことが好きになったケースもあります。関係性を重視して、自分で考え、自分で選び、行動するように支援していきましょう。

大人が一緒に楽しく取り組むそれが何よりの教育になる

こうした関わり方やアプローチを工夫するだけでも、子どもにとって良い影響を与えていくことが可能です。しかし、本当の意味で子どもたちの主体性を引き出すためには、勉強でも、スポーツでもなんでもそうですが、大人自身が楽しんでいること、これがなにより必要だと思います。ユーモアなこと、楽しいことを嫌う子どもはいません。子どもにかかわる大人が楽しそうにしていれば、子どもたちは自然と興味を持って、近寄ってきます。部屋の掃除でも、片付けでも、勉強でも、普通なら嫌がりますが、ちょっとした工夫をすれば、楽しい時間に変わります。遊ぶように楽しみながら、一緒の時間を過ごすこと。それを大人が率先して取り組んでいくこと。それが主体的な子どもを育てていく、一番の教育になると私は思います。

長野 眞弓
4人兄弟の長女として育ち、幼い弟や妹の面倒見をしてきた経験から保育士を目指す。保育園、児童館、児童施設など数多くの勤務経験を生かして、1996年に家庭保育を開設。 働く母のために、365日24時間、発熱をしても子どもを預かることをポリシーに取り組み、2006年には東京都認証保育所「森の保育園」開設。 翌年法人化し、2018年には認可保育園となる。大田区内で約200ある保育園のうち、15年連続で「入園したいランキング」トップ3に輝き続けている。