「あなたの好きなことってなに?」~傾聴と承認から、関係性の土台を築き上げる~

子育て 社員教育 経営者の自己研鑽

William Glasser Inc. CEO /アチーブメントグループ 特別顧問  カーリーン・グラッサー

傾聴と承認から、関係性の土台を築き上げる
思春期を経験し、さまざまな心境の変化が生まれるティーンエイジャー。
大人へと成長する大切な時期でありながらも、両親や周囲の方からすると、接し方に頭を悩ますことも少なくないでしょう。
いかに彼ら、彼女らと良好な関係を築き上げながら、その成長を支援することができるのか。
学校教育に長年携わってきた選択理論心理学の権威、カーリーン・グラッサー氏にその秘訣を伺いました。

相手を動機づけることは決してできない

学校教師として教壇に立っていた時期を含めると、20年以上ティーンエイジャー教育に直接携わってきましたが、彼ら彼女らは本当に賢くて、鋭くて、自立した大人であると心から思います。ご両親や教師の立場からすると、彼ら彼女らに正しい道に進んでいってもらうために、必死に指導をしなければならないと思ってしまいがちです。どうにか勉強をさせられないか、真面目に授業を受けてもらえないかと、さまざまな方法を使って彼ら彼女らを動機づけしようとしますが、残念ながらその努力が報われることは無いと私は思います。
人は誰しもが興味を持っている人やものがあります。本人が持つその願望を無視して、なにか別のものに興味が向くように仕向けられたところで、心地よいと感じる人はいないはずです。より繊細な思春期の子どもたちならなおさらです。私たちには彼らを動機づけることはできません。できることは、彼らが動機づけられていることに興味を示し、深く知るということです。そして、取り組んでほしいことが、彼らの願望に対してどのような意味があるのかという、情報を与えることだけです。言うまでもありませんが、それは彼らの願望を知らずしてなし得ることではありません。

問題児と優等生は紙一重

私は13年間美術の教員として教壇に立っていましたが、なかでも非常に印象深い男子生徒がいます。彼は授業の度にクラスメイトにちょっかいを出しては、課題を放棄して授業の邪魔をしようとしていました。ただただ、楽しい気分を味わいたいために、毎回問題を起こしていたのです。私のクラスに限らず、他の先生の授業でも同様に問題児として扱われていました。通常ならば罰を与えて指導することが当たり前と思われていた時期でしたが、私がまずやったのは彼の話を親身になって聞くということでした。始めは警戒をされましたが、どんなものに興味があるのか、何が好きなのか、などとさまざまな角度から質問をするにつれて、少しずつ話をしてくれるようになりました。そして、彼の口から出たのは「スポーツカーが好き」という言葉でした。「君の頭のなかにあるスポーツカーを、ぜひこのデッサンの授業でデザインしてみたらどう?」と聞いてみたところ、彼はこれまでにないほど目を輝かせて「そんなことしていいの?」と答えてくれました。「もちろん、ぜひやってみて」と声をかけると彼は早速キャンバスに向かい、他の誰にも負けない集中力を発揮し始めたのです。その日のうちに下書きを終え、翌日にはカラフルに色づけをして見事な作品を完成させてみせたのです。
私はまったく彼を変えようとはしませんでしたが、願望が向く対象であれば、力を発揮できることを証明してくれたのです。その後、他の先生からも「問題児の彼に困っている」という声を聞かなくなりました。彼は、授業を邪魔するよりも、何かに向かって集中して取り組み、成し遂げることのほうが有意義であると学んだのです。

信頼という土台がある限り、反抗されることはない

子どもたちは私たちが思っている以上に、自立していますし、力を持っています。大切なのは彼らの興味関心の矛先と、目の前の取り組むべき課題を結びつけてあげられるかどうかです。いつも何を考えていて、何に興味があって、どんなものが好きで、どんな時間の使い方をしているのか。両親とはどんな関係なのか、友人関係に困っていないか、どんな夢を持っているのか。そんな一人ひとりのパーソナリティにどこまで寄り添って、尊重し、理解を示し、大切にできるのかが、良い関係を作っていくカギになります。少なくとも私が経験してきたなかでは、打算的な関わり方ではなく、本当の意味で心の底からの愛情を持って関わってきた子どもに、反抗的な態度を取られたことはありません。
良い教育をするためにも、子どもたちに達成経験を積んでもらい成功に導いていくためにも、大切なのは、良好な関係性です。関係性なしに、お互いの望みを話し合うことや、建設的な行動をとってもらうのは至難の業です。愛情を持って、相手を知る努力をしましょう。それが私たち大人にできる唯一のことなのです。

カーリーン・グラッサー
選択理論を提唱した、故 ウイリアム・グラッサー博士の妻。教壇に12年間立ち、小学生から高校生の教育に携わった後に、スクールカウンセラーに転身し、選択理論と出会う。その考え方に深く共感し、13年間カウンセラーとして活動するとともに、リアリティ・セラピーのインストラクターとしての活動もスタート。その後、グラッサー博士と再婚し、ともに選択理論研究・普及の第一人者として、幅広く活動を展開している。