脳科学の最高権威が明かす『朝活』の真実

医学博士/京都大学名誉教授 久保田 競

「早起きは三文の徳」という言葉があるように、「朝早く起きると良いことがある」とは昔からよく言われてきました。しかし朝活の有効性が、科学的な根拠と共に語られたことはあまりありません。今回は『大脳生理学の権威』と呼ばれる久保田競 京都大学名誉教授に、〝脳科学的に正しい朝活〟についてお話を伺いました。

巷にあふれる『朝活本』に騙されるな!

昨今の朝活ブームによって『〇時間 熟睡法』・『朝〇時起きの推奨』といったベストセラー本が多数でています。
そういった本に書かれたノウハウは誰にでも効果があると言えるのでしょうか?
数十年に渡り、脳科学を専門に研究してきた私から見ると、ほとんどが著者の経験則や仮説に基づいたものであり、万人には共通しないと見受けられます。

そこで、より皆さんの取り組みの効果性を高めるため、「脳の仕組み」と、最新の研究結果から、科学的根拠に基づいた朝活をご紹介していきたいと思います。

朝活のススメには、脳科学的根拠あり!

人間の身体は、サーカディアンリズム(概日リズム)にコントロールされており、太陽の光を浴びることで、だいたい24時間周期で『朝・昼は活発に活動し、夜は身体を休める』ように変化するサイクルがあります。
しかし、このサイクル、油断すると25時間周期のリズムが確立してしまいます。つまり本来身体を休めるべき夜に活動するというサーカディアンリズムと異なった、非常に効率が悪い状態になってしまうのです。
1時間のズレを、幼少期の規則正しい生活により身体が学習している場合は、ズレも戻しやすいですが、そうでない場合はズレが生じやすいのです。

これからお伝えするポイントを念頭に習慣化に取り組めば身体は学習していくでしょう。

朝は眠いから効率が悪い?驚愕の事実を紹介します

「そもそも朝活って本当に効果的なの?」
そう思われる方も多いかもしれませんので、ある実験結果をご紹介します。

上の図は、私たちが日常でさらされているストレスに対応するために、副腎皮質から分泌される「コルチゾール」というホルモンの濃度変化を示したものです。
ご覧いただければ分かるように、1日の中で最大数値を示しているのは、起床20分後。
コルチゾールはその後、変動はありつつも、就寝に向かうにつれ降下していき、夜にはかなり低い数値になっています。

つまり、ストレスにうまく対応できるのは、「起床後20分」であるということ。
夜に落ち込んでしまうようなことでも、朝は前向きに捉えられることができるのはそのためなんですね。

実際に、朝は血圧もあがり、心臓血管系の機能も良く働くため、意識状態もはっきりしています。
難しい仕事の案件なども、夜ではなく「朝早いうちから取り組んだ方がうまくいく」と言えるのです。

朝だけに目を向けるな!黄金の『〇時間睡眠』を確保せよ

朝を有効活用するために、決して欠かせない要素は『睡眠』です。
忙しいと、つい「睡眠時間を削ろう」と考えがちですが、これから紹介する調査結果をみれば、もうそんなことは考えられなくなるでしょう。

2002年にアメリカの睡眠研究者のクリプケ医学博士が100万人以上を対象に調査をしたところ、「6間時間半以上、7時間半未満(つまり7時間)睡眠の人が最も死亡率が低い」ことが分かりました。
長らく議論されてきた睡眠時間論争に『7時間』という数字が科学的根拠をもとに登場したのです。

その後も研究は続けられ、人種に関わらず「60歳以下で睡眠時間が5時間以下だった成人は、7時間睡眠に対して心臓血管系の病気、死亡率、肥満、糖尿病になるリスクが3倍以上になる」という結果もでました。

つまり、7時間睡眠の人がもっとも健康を保ち、短時間睡眠を続けた人は、早死にの可能性が高まったということです。
短時間睡眠は、決してお得ではなく、もっと言えば、寿命と引き換えにしているといっても過言ではありません。

ただ、「そうは言っても、帰宅も遅く、朝も早いから、どうしても7時間睡眠が確保できない!」という方もいらっしゃるかと思います。
そうした方にオススメなのが、仮眠。
一度の睡眠で7時間でなくともトータルで7時間とることである程度同じ効果が得られます。
もしそれも難しい方は、週末の『寝だめ』が多少なりとも有効です。

良質な眠りの鍵は、『光』と『運動』

前述の通り、我々は身体を24時間周期に調節をする必要があります。
その鍵は、「光情報」です。

目から入った、光が脳内のしこうさじょうかく視交叉上核に伝わることで目が覚めやすくなると同時に、リズムがリセットされます。
その光の刺激は、その後脳内の松果体に伝わり、15~16時間経過後、メラトニンという眠りを誘発するホルモンが分泌されるのです。
したがって、メラトニンの分泌を促すため、夜は光の刺激をなるべく目に入れず、薄暗い状態で過ごすことで、スムーズに眠りにつくことができます。

さらに、眠りの質を高めるためにお勧めなのが、私も40年近く実践し続けている夜のジョギングです。
ジョギングをすることで、思考をしたり、行動を起こす際に重要な役割を果たしている、脳の前頭前野が活性化され、あらゆる活動のパフォーマンスが向上します。
かつて私が行った研究では、週に3回・30分のジョギングをしたグループは、まったく走らなかったグループよりもテストの成績が30%もよくなりました。
距離や速さは自由でかまいませんので、1日30分を週に3回続けてみましょう。

もちろんジョギングでなくても、腹筋や、ストレッチでも構いません。
どんなに小さなことでも、運動を習慣にすることは、思っている以上に安眠と心身の健康に大いに関連しているのです。

『快感報酬システム』を使って、頭をフル回転させる

脳には「快感報酬システム」と呼ばれる働きがあります。
何か心地よいと感じるときには、ふくそくひがいや 腹側被蓋野という領域が働き、ここのニューロンが脳内麻薬ともいわれる「ドーパミン」を末端で分泌します。

ドーパミンの分泌は、前頭前野だけでなく、記憶に関係する海馬、筋肉を動かす運動野もすべて活性化させます。
したがって、朝から心地よさを感じることはその後の活動の質に大きく作用するのです。

そこで、朝にはこの快感報酬システムを利用した『お気に入りの習慣』を見つけてみましょう。
これにより早起きを習慣化することもできます。
早く起きたいのであれば、『朝早く起きることを選択した結果、起こりうる報酬』を用意してしまうのです。

例えば早く起きた時のためにおいしい朝食を用意しておく。
周囲から承認の言葉を受けることも報酬ですから、SNSなどで早起きしたことをシェアし、コメントをもらうこともいいかもしれません。
また、同じ目的に向かう仲間と朝から交流することもいいでしょう。

中には、「たまに早起きするけど続けられない」という方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、失敗しても新しいことに取り組むことは脳を活性化させます。
だから三日坊主で終わったとしても落ち込むことはありません。

快感報酬システムを有効的に活用するためには、不足した未達成に目を向けるよりも、できた達成に目を向けたほうが効果的でもあります。
段階的に目標を設定してその都度、こまめな報酬を用意することで、健康的な生活を習慣化していって欲しいと思います。

まとめ  : あなたを成功へと導く!!超「朝活」13の極意

① 1日7時間の『黄金の睡眠時間』を確保する

② 一度に睡眠7時間の確保が難しければ、複数回に分けてとる

③ 短時間睡眠は、寿命を縮める行為だと心得る

④ 起床後20分間から午前中の時間を有効活用する

⑤ 快感報酬システムを活用して 早く起きたときの報酬を用意する

⑥ 早起きが三日坊主で終わってもあきらめない

⑦ ジョギングを週に30分×3日行うことを心がける

⑧ 夜はなるべく暗いところで過ごす

⑨ 朝、起きたらまず光を浴びる

⑩ 朝はできる限りポジティブなことを考える

⑪ 悩み事は寝る前に解消しておく

⑫ 寝る3時間前は腹に食べ物を入れないようにする

⑬ 段階的に目標を設定し、都度、報酬を用意する