困難な状況に置かれても、それをチャンスに変えていける人がいます。その反面、順境でも衰退してしまう人がいます。
この違いとは何か、なぜ繁栄し続けてきた成功者たちは、そのチャンスをものにできたのか。
「チャンスを掴める人の考え方」を青木が解説いたします。
アチーブメントグル―プ 最高経営責任者(CEO)青木 仁志
北海道函館市生まれ。若くしてプロセールスの世界で腕を磨き、トップセールス、トップマネージャーとして数々の賞を受賞。その後に能力開発トレーニング会社を経て、1987年にアチーブメント株式会社を設立。会社設立以来、43万人以上人財育成、5000名を超える中小企業経営者教育に従事。自ら講師を務める公開講座『頂点への道』講座スタンダードコースは28年間で700回毎月連続開催達成、国内屈指の公開研修へと成長。現在では、現在では、グループ4社となるアチーブメントグループ最高経営責任者・CEOとして経営を担うとともに、 一般財団法人・社団法人など3つの関連団体を運営している。
ピンチは「遠慮」を手放すチャンス
歴史上の偉人や名経営者の人生をたどると、必ずといっていいほど、壮絶な逆境を経験されています。一般常識で考えれば、諦めたほうがいい、やめた方がいいと容易に想像がつくような状況です。しかし、彼らに共通していることは、そのような状況でも一切諦めることなく、むしろ発展の機会に変えてしまったということです。これは偉人のみならず、私たちの人生にも同じことが言えるのではないでしょうか。「あのとき諦めなかったからいまがある」そう思える経験は誰しもが一度はあるはずです。振り返って考えてみたときに、なぜ逆境を乗り越えられたのか。そこにはきっと、大切な人の助けがあったのではないでしょうか。困難というのは、一人の力ではどうしようもなくても、他者の力を借りることができたら、乗り越えていけるものです。どれだけ他者の力を借りることができるのかが、困難をチャンスに変えられる人とそうでない人の違いといっても過言ではありません。そして、力を借りるためには、言うまでもないですが、「力を貸して欲しい」と明確に相手に伝える必要があるのです。当たり前のようですが、なかなかこれができていないということも少なくないはずです。「お願いしてもいいのだろうか」「負担になってしまうのではないか」、そんな遠慮が邪魔をして、なかなか進んで一歩踏み出すことができない場面が多々あることでしょう。逆境やピンチとは、そういった遠慮を乗り越えて、素直に他者に協力を依頼できるきっかけをもたらしてくれます。切羽詰まっているので、必然的にやるしかないからです。火事場の馬鹿力とも言えるかもしれませんが、これまでできなかったことができるようになっていくのです。「私にはこれは難しい」という思い込み、すなわち制限的パラダイムを打破させてくれる機会なのです。
このようにピンチをチャンスに変革して、これまでやってこなかったが目標達成に対して効果的なことに全力で取り組めること。それが、チャンスを掴める人の一番の特長であると、私は思います。
見返りを差し出す覚悟ができているか?
ではすべての人が、周囲の力を借りられるかというと、決してそうではありません。同じお願いでも、誰から言われるかによって、気持ちが乗るかどうかが変わるように、あなたは周囲にとって力を貸したいと思える存在かどうかが問われます。成功者とそうでない人との一番の違いは、この「人の力を借りられる人格特性を身につけているかどうか」であるといっても過言ではありません。それほど大切なことです。何がその違いをつくり出しているのかというと、一言で言えば、誠実さだと思います。私は、これまで40万人以上の方の研修を担当し、さまざまなタイプの方とお会いしてきました。業界を代表する経営者・成功者の方がたくさんいらっしゃった反面、一時的な成功を収めたがやがて衰退していってしまう方や、なかなかうまくいっていない方もいらっしゃいました。客観的にその方々の何が違うのかを観察したときに、受けた恩をどれだけ忘れずに返し続けているかどうかという誠実さであると感じます。
一時的に周囲の力を借りることは、おそらく誰でもできることです。しかし、苦しい状況だから、大変だからといって、周囲の優しさに甘えてしまってはいけません。わかりやすく言えば、支援してくれる人にその支援以上の見返りを渡しているかどうかということです。
窮地に追い込まれたときに頼る先は、大概が身内だったり、知人だったりします。私も、創業間もなくして作った『横綱千代の富士 頂点への道』という商品がまったく売れずに、1億5千万円の在庫ができてしまったとき、なんとか事業を存続させていくべく、さまざまなものを担保にして借金をしました。それでもうまくいかずに、顧問の先生や身内にもお金を借りたことがあります。本当に多くの方に頭を下げて、たくさん支援していただきました。そしてそのときに心に決めたことがありました。それは、この方々に一生恩返ししていこうということです。元本だけでなく、さまざまな形で、通常の利子以上のお返しをしてきました。ここで私が言いたいのは、金額どうこうという話ではありません。受けた恩を生涯忘れずに、その方々を大切にし続けられるかどうかということです。おかげさまで、本当に多くの方の支援をいただいて、このピンチを切り抜けることができました。そして、この売れなかった商品を元に開発をした3日間の『頂点への道』講座が、アチーブメントのシンボリックセミナーとなり、毎月連続700回開催まで成長していくことができたのです。
一番苦しいときに支えてくれた人を忘れない。言葉で言うと、ごくごく当たり前のことです。しかしこの当たり前のことを、どれだけ特別に熱心に、そして徹底的に追求しているかどうか。これが周囲の信頼を集められるかを左右します。あなたにこれからも力を貸したいと思ってくれるかどうか、これからも進んで支援をしたいと思ってくれるかどうかを決めるのです。
備えがあればチャンスは掴める
ここまで、ピンチにチャンスを掴める人の特長や条件をお伝えしてきましたが、もちろん、ピンチというのは可能であれば避けたいものです。ましてや、「ピンチはチャンス」という言葉が、どこか違う意味で独り歩きしてしまい、ピンチに立ち向かっていることそのものがよいことだと思い込んでいないかは、特に注意が必要です。なぜならば、避けられない環境面から生まれたピンチなのか、身から出た錆によるピンチなのかで、その本質的な対処法はまったく違うからです。もし自分の詰めの甘さが招いたピンチなのであれば、しっかりと振り返って、経営の基準や心構えを改善する必要があります。その上で、二手・三手先を読み、常に何が起こってもいいように準備をしておくこと。この事前対応ができているかどうかが、ピンチが訪れたときの運命の分かれ道です。
経営において、どうこの考え方を活かすのかというと、松下幸之助翁が説いた「ダム式経営」を私は大切にしてきました。節税に走って無駄な経費を計上するのではなく、資本を増やすこと。いまではなく未来を見据えた仕組みや制度を導入していくこと。そして、優秀な人材の採用と育成に時間とお金を使って、強固な組織を創り上げていくことです。きちんと備えていれば、どんな状況になっても動じずに対処ができます。そうすることで、他者の力を存分に借りることができ、目の前に巡ってきたチャンスを躊躇なく掴み取ることができます。そのためには、思考のなかでその状態をデザインできていることが重要です。誠実さを持って、協力してくれる社員やお客様・取引先や関係者の方々を大切にし、恩に報いる生き方をしていきましょう。それが未来を切り開いていく鍵となるのです。