「真心」が人と組織を動かし発展に礎に ― 国内4位の人気テーマパークへ―

株式会社アワーズ 代表取締役社長 山本 雅史

ジャイアントパンダを始め、数多くの動物や自然と触れあうことができ、子どもたちがこぞって集まるテーマパークとして知られている和歌山のアドベンチャーワールド。2018年に発表された人気テーマパークランキングでは、日本国内で堂々の第4位にランクインをされています。来場者に感動を生み、高い満足度をつくり出し続けるのは決して容易なことではなく、数々の逆境があったと、3代目代表の山本雅史氏は語ります。一体何が組織をまとめ上げたきっかけになったのでしょうか?お話を伺いました。

理念経営を志し、苦悩した日々

私が3代目の社長に就任したのは、2015年6月のことです。

2代目社長であった父は、会計士としての経験をもとに戦略的な経営を行い、綿密に計画を立てて実行するタイプの人でした。

副社長として近くでその姿を見てきた分、そのような経営は自分にはできないなと思っていました。
そこで、自分の経営スタイルを模索するなかで、出会ったのが大切にしたい価値観を明確化し、社内に浸透させ、一貫した経営を行う「理念経営」でした。

まずは、そのノウハウを学ぼうと、アチーブメント社の『頂点への道』講座を受講したのです。

受講するなかで何度も自問自答し、アワーズと自分と向きあって気づいたことは、言語化こそされていないものの、我が社はずっと「理念経営」をしていたということです。

お越しになるゲストの方々の喜びのために、動物たちや仲間とよい関係を作り、協力して仕事をする。
そんな価値観を大切にする組織でした。

しかし、それは、父や祖父が大切にしてきたものであり、私が大切にしたいこととは違うのではと、どこか自分ごとになれなかったのです。

その考えが変わったのは、「自分の理念を書き出す」セッションでした。
大切にしたいことはなにかといざ聞かれると、答えられなかったのです。

アワーズの価値観が自分ごとに思えなかったのは、父との経営スタイルの相違ではなく、私自身が何を大切にするのかが不明確だったからだと気が付きました。

これまでの人生を回想し、仕事で仲間とともに全力投球したときや、来場いただいたゲストの笑顔を見たときなどさまざまな場面から模索していきました。

そして、心に浮かんだのが「関わるすべての人を笑顔にする。幸せにする人でいたい」という思いでした。

ほかならぬアワーズが大切にしてきたことだったのです。

このときに初めて、アワーズが私の価値観を育んできてくれたと同時に、ここにこそ私が大切にし、追求していきたい理想があると感じたのです。
そして何より、絶対にこの会社を発展させるという決意が固まりました。

言語化した組織の指針、成長への見とおし

敬意を持ってアワーズの歴史をたどり、先輩方が築いてきた価値観を心に刻み、言語化した理念が「こころでときを創るSmileカンパニー」です。

Smileとは「幸せ」を意味しており、その「幸せ」とは、ほかでもない私たち一人ひとりの「こころ」が創り出すものです。
そしてそれは、「とき(時間)」を過ごすなかでうまれるものです。

私たちアワーズは、「思いやりのこころ」「素直なこころ」「前向きなこころ」この3つのこころを持って、社員・ゲスト・社会が「Smile(幸せ)」を感じられる、真心のこもったサービスで、世のなかに貢献するという意味を込めています。

非常に納得感があり、これまで大切にしてきたこと、そのものでした。

次にテーマとなるのは、社内に落とし込むことでした。
言語化した理念は、暗黙知で共有されているものだったので、共感してもらうにはそんなに苦労はしなかったのですが、社員の一人ひとりが理念を自分ごととして受け止め、自らが考え、判断し、さらなる具現化・クオリティの向上に主体的に努めていってもらうことには試行錯誤が必要でした。

それを実現するためには社員の一人ひとりの心のなかに原動力が必要です。
願望であり、大切にしたい価値観ともいえますが、私自身がそうだったように、ここばかりは誰かから強くいわれても明確になるものではなく、自分のなかにしか答えがありません。

そう簡単には変化しないのです。

自分の言葉で理念を語る環境が「成長」を加速させる

そこで、そんな主体性を引き出していくために、まずは「幸せ」の意味を今一度考えました。
一般的には穏やかなイメージがあるかもしれませんが、私たちは「幸せ」には成長が必要不可欠だと考えています。

なぜならば、社員一人ひとりの成長なくして、お客様への貢献が拡張されることはないですし、企業が成長することもないからです。

力なくしては大切な人を守れないのと同じように、どれだけ美しいことを語っていても、それを実行して形にする能力がなければ机上の空論です。

なので、社員が「成長」できる環境をどう整えるかを重視して取り組んでいきました。

業務フローやさまざまなルールの改定をしたり、研修の機会を増やしたり、理念の具現化だけを考える時間を取ったりと、さまざまなことに着手してきましたが、社員が自らアウトプットできる場をどれだけ設けているかがいちばん大切だと思います。

持っているアイデア・考え方を口に出したときに、本人がいちばん整理されます。

何を大切にしたいか、どんな会社にしたいか、どんな働き方でどんな価値を生み出したいか、人それぞれ必ず持っています。
それをアウトプットし続けてもらうことで、理念を具現化する延長線上に自分に必要な成長が明確化されていくと思うのです。

日々のコミュニケーションのなかで理念の大切さを伝え続けている
日々のコミュニケーションのなかで理念の大切さを伝え続けている

経営者自らが理念に生ききる姿に人のこころが動く

社長の立場になってから5年。
さまざまな取り組みを行ってきましたが、うまく行かないこともたくさんありました。
部下のミスを頭ごなしに怒鳴ったり、信頼関係をうまく築けずに苦悩した時期もありました。その頃の私のマネジメントを、社員は「悪夢の日々」と呼ぶほどです。

また、2017年には園内で飼育員が動物に襲われて亡くなるという死亡事故が起き、数多くのマスコミに取り上げられました。

私の経営は間違っていたのかと、責任の重さに眠れない日々が続いていたのです。逃げてしまいたいと何度も思いましたが、そんなときに力を与えてくれたのも、やはり理念でした。

関係者の立場に立って物事を考え、理念から一貫した判断を貫き、まずは遺族に謝りにいき、メディアにもあったことを正しくお伝えしました。
それで済まされることではないのは重々承知でしたが、持てる限りの誠実さを持って対応した結果、マスコミの方々が正しく報道してくださり、味方になってくれたのです。

そして、その姿を見てくれた社員たちが、絶対にこの経験を学びに変えようと一生懸命改善につとめてくれた結果、一歩ずつ組織がよくなっていったのです。

おかげさまで、世界最大級の旅行サイト「トリップアドバイザー」発表「トラベラーズチョイス2018」にて、日本で第4位の人気テーマパークに認定いただきましたが、これは私というより、社員のおかげです。

社内外ともに力を貸してくださる多くの方に恵まれていますが、一言に「理念」に守られていると思います。
誠実に「理念」と向きあっていく限り、仲間が、お客様が、社会が応援してくださります。

これからもアワーズが大切にするものを、社員一同追求してまいります。