逆境をチャンスに変えるwithコロナ社会における経営人材の在り方

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、人やモノの動きが制限されるなか、国内外の経済活動が大きな影響を受け、苦境に立たされる企業が増えている。一方、そうした逆境をチャンスとして捉え、力強く事業を牽引するリーダーもいる。
先行きが見えにくい困難な時代に、指導者として大切なものとは何か。日本青年会議所の会頭として、力強くメンバーをリードしている石田全史会頭をお招きし、お話しいただいた。

苦境のなか、改めて自身の原点を見直す

青木
本日は公益社団法人日本青年会議所(JC)の石田全史会頭をお迎えしました。私と石田さんとはJCの先輩・後輩という関係でもあり、忌憚なくお話できればと思っています。
コロナ禍で、世界的に経済活動が大きな影響を受けています。これまでにない苦境に立たされている経営者も少なくないことでしょう。JCの会員からも、そうした声は聞かれますか。
石田
はい。新型コロナウイルスの影響で事業が推進力を失い、困難な状況に直面している会員も、少なからずいると実感しています。
青木
多くの企業が影響を受けざるを得ない状況にあることは事実ですね。そうした状況で、ともすればネガティブな思考に傾いてしまう経営者もおられるかもしれません。
石田
そうですね。実際にさまざまな不安を抱く会員は増えています。そこで私は全国のブロック会長をはじめとする主要メンバーと個別に1時間程度面談するという取り組みを行っています。
青木
どのような話をされることが多いのですか。
石田
現在抱えている課題や悩みなどを、語っていただくことがほとんどです。私は聞き役に徹しつつ、所々で自分なりの考えを述べたり、アドバイスをしたりしています。そのなかでもっとも重視しているのは、事業を行う「目的」を再認識していただくということです。取り組んでいる事業はそもそも「誰のために、何のために、なぜ行っているのか」という原点を見つめ直すことで、困難な状況を乗り越えるための力を、今一度高めてほしいと考えています。

青木
素晴らしいですね。モチベーションが落ちかけているときに、「やる気を出して!」と叱咤激励しても、期待する効果はそう得られません。逆に、本来の目的を改めて確認するということには、大きな意味があります。良い会社をつくってお客様や社員を幸せにしたい、事業を通して地域社会貢献したいなど、自社事業やJC活動の意義を再確認できれば、再び主体的に、力強く動き出すことができることでしょう。
石田
面談を行うことでポジティブな気持ちになってくれる方が多いので、手応えを感じています。これまで120名ほどと話しましたが、そこで再点火させたメンバーが各支部の後進に自身の情熱を伝播し、さらに会員個々の思いを引き出して、ともに進んでくれることを期待しています。

むしろ、ダイナミックな変革を起こすチャンス

石田
今回のコロナ禍においては、先行きが不透明ななかで事業を牽引する難しさを感じています。日々刻刻と変化する状況に応じて、柔軟かつスピーディに物事を決断する必要がありますね。
青木
同感です。当社でも、政府の自粛要請から2時間後に、事業の柱である全公開講座の中止を、大幅な売上減を覚悟して決断しました。実際に売上は落ち込みましたが、この苦境を乗り切ろうという思いが、新たな商品の企画につながりました。社員がオンライン講座を企画・開発し、チャレンジしていった結果、予想を上回る反響が得られたのです。それが売上回復にも大いに貢献してくれたうえ、事業の新しい可能性を見いだしてくれたと感じています。これまで私たちは、思いをダイレクトに伝えるため、会場での講座開催にこだわっていましたが、場所や時間、参加者数などの制限を受けにくいオンライン講座は、会場とは異なる可能性をもっています。
石田
ピンチをチャンスに転換されたのですね。コロナだから「○○ができない」ではなく、どんな逆境下にあっても「○○ならできる!」という発想が大事だと、私も感じます。そうしたパラダイムシフトこそが、いま求められていますね。
青木
そのとおりです。あらゆる逆境には、それと同等、あるいはそれ以上の成功の種が隠されています。当社は創業3年目のときに大きなピンチを迎え、1億5000万円もの在庫商品を抱えることになりました。その苦境を何とか乗り切ろうと必死の思いで開発したのが、以降28年間毎月開催している『頂点への道』講座です。当社の事業の柱となっている講座です。また20数年前には、主要メンバーが起こしたトラブルから社員の3分の1が退社し、売上が急減するという窮地に陥りました。当社にとっては大きな痛手でしたが、そこで社員と袂を分かつという決断がなければ、当社が健全に成長することはなかったと思っています。そのピンチの後に、当社の首席トレーナーとなる佐藤英郎とのご縁ができ、当社が躍進するための基盤をともに築くことができました。当社は逆境に直面するたびに、それと真正面から向き合うことで、さらなる成長への道を見いだしてきた歴史があります。
石田
ピンチのときには、「苦しい」という思いに苛まれがちですが、事実の捉え方一つで、ダイナミックな変化を起こすことができますね。
青木
はい。新型コロナウイルスの感染拡大という事実は変えられませんが、そうした現実に対する捉え方は変えられます。このピンチをチャンスと受けとめ、生産性を高めるために業務内容を見直したり、新たな事業を開発したり、新技術を導入するなど、いまのタイミングだからこそできることに挑戦すべきだと思いますね。当社セミナーの受講生となっている経営者のなかにも、この状況に対応してビジネスの新機軸を打ち出し、業績を伸ばしている方はたくさんおられます。逆境のなかには、次代に向かう成長の種がたくさん隠されていると考えるべきでしょう。

石田
先ほどJCのメンバーと面談を行っているといいましたが、そのような機会をとおして、私自身がエネルギーをいただくことも少なくありません。ウィズ・コロナの時代に向かって、新たなトライをしていきたいというメンバーの情熱を、ひしひしと感じることも多いのです。JCでは国内外で各種イベントやボランティア、スポーツ振興事業など、さまざまな社会貢献活動を行っています。新型コロナの影響でそうした取り組みが中止になったり、多くの制約を受けたりしていましたが、活動を再開するためのガイドラインづくりを、現在、政府の方々も交えて行っています。感染リスクを軽減しながら、イベントや各種活動を開催できるような指針を、広く産業界に示すためです。そうしたものを活用してイベント運営の実績を積めれば、プロスポーツや大規模イベント、各種コンベンションなどを、より積極的に開催していこうという気運も高まり、経済活動の活性化を加速できると考えています。
青木
素晴らしい取り組みですね。国内外でのJCの活動は、地域社会に大きく貢献してきた実績があります。そうした活動の継続のために、人々が安心して参加できる指針ができるとよいですね。
石田
はい。たくさんの人や多様な産業を巻き込んで、ウィズ・コロナの時代の新しい基準をつくりだし、社会全体が前向きに歩む速度を高めたいと思っています。

指導者の強い信念が、未来を切り開く

青木
東日本大震災の原子力緊急事態宣言の際、福島県で事業を営まれていた石田さんは、大変な苦境に追い込まれたと思います。今回のコロナ禍によって、大きな災禍を二度も経験されたことになります。そうした厳しい環境に身を置いているときにも、常に「社会貢献」を念頭に置き、経営者として、またJCのリーダーとして邁進する姿勢を心から尊敬していますが、社会貢献に対する石田会頭の思いとは、どのようなものなのでしょうか。
石田
自分たちの子どもたちの世代に何を遺すべきなのかと考えると、それはお金やモノなどではなく、「良い社会」だと私は思っています。誰もが未来に希望をもって、何事にもチャレンジできる自由な社会です。そうした世の中で、人々が心身ともに豊かに暮らせるようになることを願って、さまざまな社会貢献活動を行っています。
青木
「全ての人びとが笑顔で生きがいを持てる国 日本の創造」というJCの基本理念を、実践する日々だといえますね。自身の目的に生きるために、日々意識していることはありますか。
石田
私は何か行動を起こす前に、常に「なぜするのか」ということを考えることが習慣になっています。その「なぜ」という理由が見つかると、自分の内部から大きなエネルギーが湧き出すのを感じます。逆に行動を起こす理由が見つからないと、アクションを継続することは難しいと感じています。
青木
前出した話と通じますが、継続的に前進するエネルギーを内面に生じさせるには、やはり「目的」が大切だということですね。
石田
はい。目的はチーム運営においても、とても大切なことですね。経営者として、またJCの会頭として、常に目的=理念を掲げながらチームを牽引しているつもりです。困難な状況に直面した時期にこそ、組織のメンバー同士で共有できる理念が大切になると信じています。

青木
おっしゃるとおりですね。ご存じのとおり、日本は自然災害が発生しやすい国です。近年も地震や台風などの災害で多くの方々が被災し、それによる社会不安や地域経済の停滞が生じてきました。また世界中の国々が政治的にも経済的にも密に連動しているグローバル社会においては、他国で生じた災禍に、日本が影響を受けるということも多々あります。そうした問題は今後も必ず起き続けますが、人がコントロールできることではありません。私たちができることは、災害や災厄に対して日頃から十分に備えることと、自身がコントロールできる事物に全力を尽くすことのみです。そして困難に直面した指導者は、「目的を実現するために、困難を絶対に乗り切る」という強い心をもつことが肝要だといえるでしょう。その信念こそが、未来をつくりだします。
石田
同感です。事業の意義を常に念頭に置き、強い意志をもって進めば、必ず道は開けると信じています。また、これからは自分たちの利益のみを追求するのではなく、リーダーはもっと大きな視点で社会の課題を見据え、アクションを起こしていく時代だと確信しています。
青木
そのとおりです。今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、世界的に甚大な被害を及ぼしました。罹患された方は本当にお気の毒だと思いますし、亡くなられた方やそのご家族のことを考えると心が痛みます。その一方でこの新型コロナウイルスの感染拡大が、地球規模で環境問題を考える機会になったという側面もあるように感じてなりません。感染拡大にともなう経済活動の自粛により、温暖化ガス排出量が減少したという調査結果が確認されていますが、次世代のことを考えたとき、これは示唆に富む事実だと思えます。
石田
人間が求めてきた豊かさの基準を、見直すきっかけかもしれません。持続可能な社会をつくることが人類共通課題になっていますが、その実現には、課題解決のための事業を、末永く継続的に行うための仕組みづくりが不可欠です。しかしそれをボランティアに頼っては、無理が生じかねません。社会課題を解決する取り組みを、ビジネスとして継続する企業が増えていくことが、切実に求められているのです。これからの企業経営者は、SDGsを念頭に置いて事業を考えていくことが、当たり前になることでしょう。
青木
御社は、震災の被害を受けた福島県で、2万本の桜を植樹をし、再生可能エネルギーによって自社の使用電気全てをカバーし、また、女性がより活躍するための働き方改革に取り組むなど、御社はSDGsにも積極的に取り組んでいますね。
石田
はい、事業そのものが目的ではなく、事業を通していかに社会貢献していくか。そして次代に向けていかに良い人材を育てられるかということを、重視しています。ご存じのとおり、JCは世界各国に16万人以上の会員をもち、その約7割が経営者です。そのなかから、次世代のリーダーを数多く育てていくことが私たちのミッションでもあります。指導者が変われば、未来は必ず変わる。私たちはそう信じています。
青木
経営者・JCの指導者として、石田会頭が今後も力強くリーダーシップを発揮されることを願っています。本日はありがとうございました。