約束を守り通すことそれが志経営の本質

ここまで見てきた3社は、逆風を力に変える目的から一貫した経営を大切にしてきましたが、アチーブメントの青木は、それを「志経営」と呼びます。では、いかにして志経営を実現すればよいのでしょうか。志経営の本質と、経営者に必要とされるリーダーシップを青木が解説します。

苦難のときにこそ、経営の質が試される

これまで、業界を代表する3名の経営者の活躍をご紹介しました。その共通点は何かというと、お金稼ぎではなく、事業の目的実現、すなわち「社員や顧客を幸せに導くこと」という視点で物事を考え、事業活動をしていることだと思います。企業には必ず創業者がいて、何かしらの想いを持って立ち上げたはずです。その想いが、利他的であればあるほど、「志」と言えます。志を果たす経営こそが、逆境のなかでも発展をし続けられる普遍の原理原則だと私は思うのです。これまで数多くの経営者に、志経営の価値をメッセージしてきましたが、「今の会社に目的や志を考えられるほどの余力がありません。どうしたら変われるのですか?」という質問をいただくことがあります。確かに、ヒト・モノ・カネのどれをとっても余裕がないのが中小企業です。限界を感じるのも無理はありません。しかし、私が考えるに、志とは余裕があるから立てられるものではありません。志とは、あなたがその仕事に取り組んでいる理由であり、長期的に成し遂げようとしているゴールのはずです。ゴールが不明確なまま、経営をしているとすれば、それは不必要な回り道をしている可能性が高いのです。ゴールがあるからこそ、私たちは正しく前に進むことができ、成長し、定めたマイルストーンを達成できるのです。つまり、経済の発展と、志を果たすことは、表裏一体であり、志を追求するからこそ、長期的な経済の発展が結果としてついてくるのです。

違う角度から言えば、逆境下であればあるほど、志が求められます。なぜなら、志に立ち返ることで力が湧き、志に人が集い、組織が団結していくからです。志に対して、目の前の仕事を意味づけ意義づけできている社員が多ければ多いほど、逆境下でも高いパフォーマンスを発揮することでしょう。反対に、志が浸透していない組織は、社員のロイヤリティが低く、ピンチになるとすぐに人が離れ、滅んでいきます。苦しいときほど、逆境のときほど、志経営を実践しているかどうかで、組織の明暗が分かれていくのです。

33年間、週に一度の全社会議で志をメッセージし続け、リモートワーク期間中も同様にオンラインで実施し続けてきた。

ただ待っていても、志は明確にはならない

とは言っても、明確な志を打ち立てることは、決して簡単ではありません。言葉として並べることはできたとしても、本当の意味で志を腑に落として、本音100%で語れるようになるには、ある程度の段階が必要です。私も本当に志が腑に落ちたのは、40代になってからだと思います。ただ、確信を持って言えるのは、いついかなるときも目の前のことに全力で打ち込んできたということです。

20代前半で事業を起こしましたが、失敗して多額の借金を抱えました。この返済のためにコミッションセールスの世界に入ったのですが、稼がなければ明日がない状態で、前に進むしかありませんでした。いま振り返れば当時の私に大きな志があったかというと、それどころではありませんでした。そんななかでも、大切にしてきたことは、自分との約束、お客様との約束を必ず守り通していくことです。自分がやると決めた目標は、妥協せずに必ずやり切っていくこと。お客様の立場に立って物事を考え、契約を交わした以上は必ず成果が出るようにフォローをすること。当たり前のことですが、徹底的にこだわってきました。そのおかげで成果が出るようになり、マネジャーになってからは部下との約束を守り通すことにこだわってきました。そして、創業してからは、社員を採用した以上、絶対に自分から手を離さないことや、創業時の苦しいときでも融資返済のリスケジュールをしないこと、自分が作った商品は自分で売り切ることにこだわってきました。

うまくいったことよりも、うまくいかなかったことのほうが多いのかもしれません。それでも、自分なりの誠実さを貫き続けて、一歩ずつステージを上げてきました。なかでも、社員やお客様の喜ぶ顔をとおして、選択理論を基にした人材教育の素晴らしさを実感し、私のなかにある、自分の思考と行為をコントロールすることによって、誰でも望む人生を生きられるという確信がさらに深まりました。そして、「この考え方を世に広め、自分と同じような苦しい経験をする人をなくしていきたい」ということが、私の志となったのです。その志が私を支え、33年の間、アチーブメントという会社を発展させることができたのです。

確かに、心の底から納得の行く志を立てることは、簡単ではなく、時間がかかります。しかし、見つけようとする努力、すなわち約束を守り抜く努力をしない限りは、待っていても明確になることはありません。順境のときよりも、逆境のときのほうが、湧き上がるような強い気持ちと出会えることがきっと多いでしょう。いまもし、苦しいと感じているとすれば、それは揺るがぬ志を打ち立て、志経営を組織で実践していく絶好のタイミングなのかもしれません。ぜひそのレベルに、自分自身を高めていきましょう。

志が成長を生み出す求心力となる

経営者の持つ志が、本当の意味で組織に浸透し、社員一人ひとりの志と組織の志が一致したとき、会社全体の団結力・組織力が格段に上がることでしょう。志があるから、簡単には諦めずに達成にこだわることができます。「自分はこうしたい」という我を捨てて、成果を出すことに対して素直になれます。そして、自分一人では解決できない問題と出会ったときに、頭を下げて他人の力を借りることができるようになります。志はそれだけ、私たちに力を与え、人を動かしていくことができる大切なものなのです。
では、「何が志経営ができていると言える指標なのか?」と問われたら、私はシンプルに「約束を守れているかどうか」と答えます。社員に約束したことを守れているか。お客様に約束したことを守れているか。社会に約束したことを守れているか。きっとそれは、ここまで行ったら合格という明確な指標が存在しない終わりのない旅ですが、常に追求し続けていくことで、どんな逆境にも負けない強い組織をつくりあげる求心力となることでしょう。毎日の小さな小さな積み重ねが、大きな結果に繋がっていき、未来永劫発展し続ける組織を創り上げていくのです。ぜひ、ともに志経営を実践してきましょう。