Laura Halliday
オーストラリア最大の不動産ディベロッパー、ストックランド・コーポレーションのナショナルマネジャー(顧客戦略・CX部門)。顧客エンゲージメント、顧客獲得、住宅開発事業における顧客体験デザインなどを担当するチームを率いる。2020年には、高齢者向け不動産事業の拡大を指揮し、成功に導いた。ウィリアム・グラッサー・インターナショナル(WGI)※1の国際理事を務める。
※1:WGI(William Glasser International)は、選択理論心理学の活用を支え、進展させる為に存在する、ウィリアム・グラッサー博士より正式に承認され認可を受けた国際組織です。

千葉大学卒業後、アチーブメント株式会社に入社。大学生支援、家庭教師派遣事業などを立ち上げ、選択理論心理学に基づいた教育事業を展開。その後、専門職業人や経営者向けのコンサルタントとして活躍し、マネジャー、執行役員を経て取締役に就任。130名以上のマネジメントを行う傍ら、『頂点への道』講座等のメイン講師を務め、2万人以上の受講生を指導。2023年からは「リードマネジメント・スタンダード」講座も担当。
著書『部下をもったらいちばん最初に読む本』は、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2025」にて総合グランプリとマネジメント部門賞を受賞。

オーストラリア最大の不動産ディベロッパーでマネジャーとしてチームを牽引するローラ氏は、選択理論を駆使しメンバーとの良好な関係を構築しながら、高い成果を生み出しています。今回は、アチーブメントで取締役営業本部長を務める橋本拓也がローラ氏と対談。職場における人とのつながりとパフォーマンスの関係を皮切りに、選択理論を活用し成果を生み出すチームマネジメントの秘訣を伺いました。
オーストラリアにおける人とのつながりが組織に与える影響とは
橋本 日本で行われたアンケート調査では、職場の人とのつながりが、パフォーマンスにポジティブな影響を与える可能性が示唆されるという結果が出ました。私自身も120名のメンバーをマネジメントしているなかで、職場における人とのつながりは大変重要だと考えています。オーストラリアではどうでしょうか。
ローラ 私も同じ考えです。実はオーストラリアでは、平均7年周期でキャリアチェンジを行うことが一般的です。またジョブ型の雇用制度のなかで、組織のニーズと個人のスキルのミスマッチが生じた場合、雇用契約の見直しが行われることもよくあります。
しかし、オーストラリアでも、職場での人とのつながりは重要だと考えます。
橋本 そうなのですね。
ローラ はい。以前、私の部署に、対人関係に悩むメンバーが配属されました。彼女は非常に優秀でしたが、対立的な性格が災いし、ゼネラルマネジャーなど重要なステークホルダーと度々衝突。本来の能力を十分に発揮できずにいました。
そこで私は、将来どのようなキャリアを手にしたいと考えているのか、ビジネスにおいて何を大切にしているのかといった価値観を理解しようと、丁寧なコミュニケーションをとり続けました。すると、本当は昇進意欲があり、お客様に貢献実感を持てる役割を担いたいと打ち明けてくれたのです。
橋本 素晴らしいですね。その後、彼女はどうなりましたか?
ローラ 私のチームに2年間在籍し、その間に3回昇進しました。さらに、対立していたゼネラルマネジャーからも高く評価され、今は仕事にやりがいを感じ、幸せに働いてくれています。
橋本 まさに、メンバーとの深い「つながり」がもたらした結果ともいえますね。何より、リーダーの関わりによって、人はこんなにも変わるのだと驚きました。
ローラ ありがとうございます。しかし私は決して、生まれながらのリーダーではありません。リーダーとして振る舞うことができるのは、選択理論を学び、人々がなぜ行動するのか、行動のメカニズムを理解しているからです。私の人生の目標の一つは、周りの人々が持てる力を最大限に発揮できるよう支援することですが、選択理論と出合わなければ、今の立場に至るまでにもっと多くの時間を要したはずです。
選択理論を活用しつながりを強固にするには
橋本 選択理論を学び、実践することで、ご自身のリーダーシップを確立されたのですね。選択理論をどのように活用すれば、職場のメンバーと強固な「つながり」をつくり、成長を促すことができるとお考えですか?
ローラ まず、チームメンバー一人ひとりの話に耳を傾け、彼らの言葉の裏にある欲求は何か、どうすれば欲求を満たす支援ができるのだろうかといった点に常に注意を払うことでしょうか。
なぜなら私はリーダーとして最も大切なことは、メンバーが最高の仕事ができる環境を整えることだと考えているからです。チームメンバーが仕事の目的を理解することはもちろん、ともに働く仲間とのつながりを感じられる環境、自分が認められていると実感できる環境、自らの能力が会社の役に立っていると感じられる環境、そして、もっと成長したい、より良い仕事をしたいという意欲が内発的に引き出される環境をつくることです。
そのためには、メンバーがなぜその行動をとるのかを深く理解することが大切なのです。
橋本 お話を伺って、過去の自分を思い出しました。以前の私は、メンバーのことを理解しようとするよりも、「私のやってほしいことを理解させよう」という意識でコミュニケーションを取っていました。しかし、相手に理解させようとするのではなく、相手を理解しようと意識を変えたことで、関係性が大きく改善されたのです。選択理論のいう「他人は変えられない」、「変えられるのは自分の思考と行為だけ」という考えはシンプルですが非常に大切ですね。
ローラ だからこそ私は、メンバーの仕事に心から関心を持ち、彼らがどんな仕事をしているときに喜びや価値を見出しているのかを聞いています。さらに相手の発言や行動は、どの欲求を満たそうとしているのか、観察します。そうすることで、メンバーが何に突き動かされているのかを理解でき、彼らの仕事を的確にサポートすることができるのです。
橋本 大変共感します。
ローラ 他にもリーダーには、業務を教えたり管理をしたり、ときには厳しいフィードバックをしたりするなど、日々様々な役割が求められます。
私は、そんなリーダーの役割を『人間関係の銀行』になぞらえて考えています。メンバーとの日々の関わり、例えばメンバーのコーチングをしたり、相談にのったり、ビジネスの企画のアイディアを出し合ったりしながら信頼関係を築く時間は、まるで銀行に『預金』をしているようなものです。そうして積み重ねた信頼関係があれば、問題が起きたときにその『預金』を引き出すように、相手への敬意を持ちながらも言うべきことを伝え、解決に向かうことができます。
橋本 『人間関係の銀行』とは面白い表現ですね。メンバーのなかには、残高が多い人もいれば、少ない人もいる、と想像できます。 日常のコミュニケーションや関わりで残高を増やしていくには、どうすればよいのでしょうか。
ローラ やはり、相手に関心をもつこと。そして、メンバーをコントロールしようとしないことではないでしょうか。
リーダーが常に目を光らせてメンバーを管理するだけでは、彼らの成長を阻害してしまいます。組織の規模に関わらず、メンバー一人ひとりに「預金残高」を積み上げながら関係性を築き、彼らの行動原理を理解しなければ、チームをまとめるのは難しいでしょう。
チームのパフォーマンスを向上させるには
橋本 チームのパフォーマンスを上げるために、取り組まれていることはありますか?
ローラ 私のチームでは、全員で選択理論を学んでいます。
また、年に一度ワークショップを実施し、チームとして目指す将来のビジョンと目標を全員で設定します。大切にしたい価値観・ビジョン、これから生み出したい成果を可視化した「クオリティ・ワールド・ピクチャー」というビジョンボードの作成を通して、全員が同じ目的・目標に向かって協力し合える関係を築いています。
橋本 メンバー全員で選択理論を学び、共通の目的・目標をもつことで、チームとしての一体感を高められているのですね。一方で、チームで仕事をしていると、どうしても意見がぶつかることもあるのではないでしょうか?
ローラ そうですね。ビジネスの現場では、意見の対立は避けられないでしょう。そんなとき、リーダーは間に入って調整する役割を担います。対立の理由の多くは、チームの目標が十分に共有されていなかったり、お互いの考えをきちんと伝え合えていなかったりすることです。
このような状況では、信頼関係を深めながら、チームのゴールを改めて確認することが大切です。また、意見が異なる相手に対しても、その違いを認め、互いを尊重する姿勢が重要です。
ただし、リーダーが常にすべてのメンバーをサポートし続けることは現実的ではありません。そのため、メンバー同士が強固な関係を築き、協力し合うスキルを学ぶことも重要です。
橋本 リーダーとメンバー間のみならず、メンバー同士のつながりをつくることは、チームの成長に欠かせませんね。
選択理論の可能性
橋本 ローラさんとのお話を通して、ますますビジネスで選択理論を活用する価値に確信を持てました。
ローラ ありがとうございます。選択理論はもともとカウンセリング分野で開発されたため、ビジネスへの普及には時間がかかるかもしれません。しかし、ビジネス分野で選択理論が広がると非常に大きな影響力を持つと思います。なぜならカウンセリングは一度に一人にしか伝えられませんが、ビジネスはチーム全体、そしてビジネスに関わる全てのステークホルダーにまで波及していくことができるからです。
橋本 仰る通りです。私が選択理論から得た最大のものは「自由」だと思っています。以前は不安や過去の出来事に囚われ、他人に怒りを感じていたこともありました。しかし、コントロールできることとできないことを区別し未来に目を向けることで、真の自由を得られたように思います。世界には、コントロールできないことに悩み苦しんでいる人が多くいます。ローラさんは、選択理論が世界中に広まったら、世界はどう変わると思いますか?
ローラ 世界はより幸せな場所になるでしょう。選択理論を学ぶと自己理解が深まり、どうすれば自らの欲求を満たし、幸せな選択を選ぶことができるのかを考えられるようになります。自分自身の強さや可能性を知ることで、一人ひとりが責任を持って行動し、自分の価値を信じて生きていけるようになると思います。だからこそ、これからも選択理論を実践し、普及をする活動に力を注ぎたいと思います。
まとめ人とのつながりを強固にし、職場のパフォーマンスを向上させるには
- 1 相手のことを知ろう・理解しようとするコミュニケーション
- 相手を変えよう、コントロールしようとするのではなく、相手を知ろう・理解しようというスタンスを心掛ける
- 2 チームのゴールを共有する
- チームとして目指すビジョンや目標を設定し、チームメンバー全員が同じ目的・目標に向かえる状態をつくる
- 3 選択理論を学びあう
- 行動のメカニズムを学び、お互いの欲求や上質世界を理解したうえでコミュニケーションが取れる環境をつくる