経営者が社員の志を育むために

アチーブメント株式会社 代表取締役会長 兼 社長 青木仁志

これからの時代、「志」「人生の目的」がますます重要になるという。したがって、企業の発展はそこに属する社員がいかに志と人生の目的を持ち、そこに向かって行動できるかにかかっているとも言えるだろう。どうしたら経営者が社員の志を育むことができるのかに迫る。

恐れや不安のない選択理論が浸透した組織

私は、これまで『日本でいちばん大切にしたい会社大賞』審査委員、『人を大切にする経営学会』常任理事を数年務め、4000名を超える中小企業経営者教育に携わってきました。

その経験から言えるのは長期に渡って発展する企業は、社員一人ひとりが企業の志と限りなく一致するような人生の目的や志を持っています。
その社員の割合が多いほど、企業はより発展すると言っても過言ではありません。

志というのは本来誰もが持っているもです。
たしかにそれを明確にするのは本人次第ですが、経営者は社員の志を育む環境を創ることが求められます。

なぜなら人づくりこそが組織の発展の源であり、経営者は、組織の教育者としての責任があるからです。

ではどうしたら社員の志が育まれるのでしょうか。
まず「志を育む前に、志を持っている人財を採用する」という入口管理も重要です。
アチーブメントでは、会社の志と自らの志が一致する人財に徹底的にこだわって採用しています。
そのため一度採用した人財には徹底的に教育を行います。少なくとも私は「一生涯、共にする覚悟」で採用をしているのです。

次に重要なのが、選択理論が浸透した組織風土です。
アチーブメントは事業活動のすべての土台に選択理論心理学(以下「選択理論」という。)を置いています。

選択理論と相対する外的コントロール心理学では「人は外からの刺激によって動機づけられる」と考えます。
経営者に限らず親も含めた広義の「指導者」の多くは、外的コントロール心理学を用いて人を強制的に動かそうとし、またそれが可能だと思っています。
そのために、「批判する・責める・脅す・文句を言う・がみがみ言う・罰を与える・目先の褒美で釣る」といった行動で相手をコントロールしようとするのです。

しかし、こうした強制では、恐れや褒美がモチベーションとなり短期的には効果があっても、長期的には離職など何らかの問題が生じます。
まして志とはほど遠い状態に陥いってしまうのです。

一方、選択理論では人は「自らの内側の願望によって動機づけられる」と考えます。
相手をコントロールしようとせず、相手の中にある真の願望を引き出すために「傾聴する・支援する・励ます・尊敬する・信頼する・受容する・意見の違いについて交渉する」といった行動をとります。

結果、恐れや不安はなくなり、相互信頼・相互尊重が生まれていきます。
アチーブメントは創業当初から、選択理論をもとにした組織を創ってきました。
管理職となると、外的コントロールを使うのであれば、どれほど成果を出していても昇格はできません。

経営者の社員観と可能性を信じ続ける心

選択理論が浸透した環境に加え、次に重要な点が経営者の社員観でしょう。
つまり社員をどうとらえるか。私にとって社員とは、共に志を実現する同志であるとともに、「天と社会からお預かりしている大切な存在」です。
決して経営者の願望実現の道具ではありません。

こうした社員観が「社員の可能性を信じ続ける心」へと繋がっています。
当社ではよく人事異動が行われ、中にはそれまで思うような成果が出せなかった社員が高いパフォーマンスをあげることもあります。
そうしたとき社員からは「なぜあの社員があの部署やチームで活きるとわかったのですか」と質問を受けます。

その理由の一つとして、グループも含めた全社員の顔写真付きの組織図を執務室に置き、一人ひとりの顔を思い浮かべながら「社会からの預かりものである大切な社員が、どうしたら能力を最大限発揮できるだろうか。物心両面豊かになれるだろうか」と常に考え続けていることがあります。

それが多くの社員の天分発揮と、それに伴う毎年の120%成長に繋がっていると思います。
採用したからには、本人がこの会社で社会に貢献していきたいという限り、絶対に私からは手を離しません。
「愛とは、他の人が持つ可能性の探求に誠意を傾けること」なのです。

確かに当社は実力主義、個人の成果に応じて、経常利益の30%を社員に還元しています。
しかし一方で、成果に関わらず、創業から全社員とその家族の誕生日に、メッセージ付きの花を贈ることを欠かしたことがないのは社員への感謝を行動で示したいからです。

能力開発のスペシャリストとして、どんなに崇高な理念や志を掲げようとも実践なくしてはすべて「虚」の世界だと思っているからこそ、実行に徹底的にこだわってきました。

以上のように選択理論に基づいた恐れや不安のない環境で、周囲からの無条件の信頼を受けると、社員は自己肯定感が高まり、その期待に応えようとします。
その中で、「この会社で何を成し遂げたいのか」「そもそも人生で自分が本当に成し遂げたいことは何なのか」を求めていきます。

志とは「愛を含んだ人生の目的」のこと。
それは「与えられている自分」に気づいたときに、それを何らかの形で周囲や社会に返そうとする〝感謝と愛の現れ〟ともいえると思います。

それゆえ、志を育むために、企業の組織風土を選択理論的な風土にするとともに、社員の可能性を信じ続けることが大切です。

経営者自身の志と、一貫性が周囲の志を育む

最後に最も重要になることが、「指導者自身が命がけで実現したい志を持っているか」、そして「志から一貫して行動しているか」ということです。

それは単なる願望レベルではなく、人生をかけて成し遂げたい使命です。
私でいえば、貧しい家庭に育ち、外的コントロールを受けた経験から、「選択理論とアチーブメントテクノロジーを広げ、不満足な人間関係に起因するあらゆる不幸を軽減し、一人でも多くの縁ある人を物心両面の豊かな人生に導く」という、天から与えられたミッションに対して、一点の迷いもなく歩んできました。

この、一人では実現できない志を果たすために、財団まで創って活動しています。
私も毎週の会議、SNS、毎月の社内報など数えきれないところで社員へ繰り返し、繰り返し、志を伝え続けています。

志が伝わるかどうかは経営者自身が志にどれほど確信を持ち、一貫して行動しているかに左右されるでしょう。
この経営者の行動こそが、社員の志を育む一番の要素なのです。

経営者の方は、自らの志がまだ弱いと思うのであれば志を明確にし、一方で、志があるのであればさらに一貫性を通し、周囲に貢献し続けること。
私はこの指導力開発の技術を38万名に伝え続けてきました。

真の成功とは、自らの成長と人々の貢献が一致すること。

経営の目的は縁ある人を幸せにすることですので、そのためにも、志と日々の実践の一貫性、言い換えれば、〝理(理念)と利(利益)の統合〟を限りなく追及し、共に縁ある人々を導ける指導者へと成長していきましょう。

 

青木 仁志(あおき さとし)
北海道函館市生まれ。10代からプロセールスの世界に入り、国際教育企業ブリタニカ、国内人財開発コンサルティング企業を経て、32歳でアチーブメント株式会社を設立、代表取締役社長に就任。自ら講師を務める『頂点への道』講座スタンダードコースは講座開講以来27年間で673回毎月連続開催、新規受講生は34,105名を数え、国内屈指の公開研修となっている。その他、研修講師として会社設立以来延べ380,129名の研修を担当。2010年から3年間、法政大学大学院政策創造研究科客員教授として、講義「経営者論特講」を担当し、法政大学大学院 坂本光司教授が審査委員長を務める「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の審査委員も務めるなど、中小企業経営者教育に力を注ぐ。2017年より、復旦大学 日本研究センター 客員研究員に就任、2018年より公益社団法人 経済同友会 会員として活動。著書は、30万部のベストセラーとなった「一生折れない自信のつくり方」シリーズをはじめ、『松下幸之助に学んだ『人が育つ会社』のつくり方』(PHP)など55冊。解題 新・完訳「成功哲学」など計4冊。うち11点が海外でも翻訳刊行。