社員が自身の価値に気づくこと それが志を育む第一歩

子育て 社員教育 経営者の自己研鑽

アチーブメント株式会社 代表取締役会長 兼 社長/
アチーブメントグル―プ 最高経営責任者(CEO) 青木 仁志

人が育つ組織をつくっていくカギとなるのが理念の浸透であり、
すなわち志への深い共感であると、アチーブメントは伝え続けてきました。
そのような組織文化をつくり出していくために、経営者自身がどのような研鑽を積み、
何から取り組み始めるとよいのでしょうか。
志を育む組織づくりのポイントについて、青木が解説いたします。

育成力とは、経営者の人格の投影である

「どうしたら人が育っていきますか?」この質問は、これまでにも数多くの経営者からいただいてきました。十人十色の社員に対して、組織が目指す基準や方針を理解し、力をつけてもらうということは、決して簡単ではなく、なかなか一筋縄ではいかないものです。育成の方法がわからないことがその大きな要因であると思いますが、その前にゴールが不明確では、プロセスでいくらもがいてもなかなか結果が出ません。まずは、何をもって人が育ったと言えるのかを明確にする必要があります。それはつまり、育成とは何かをしっかりと定義するということです。
育成とは一言で言えば、「自主自立した人材を育てること」だと私は定義しています。組織の方針や理念に則って物事を判断し、周囲に対してリーダーシップを発揮しながら巻き込んでいき、そして自分が掲げた目標を、誰にも何も言われなくても責任を持って達成できる人材です。
もっとシンプルな表現をすれば、「約束を守れる人」とも言えます。何に対する約束なのかというと、それは「理念」です。「理念」の具現化に対して、自身が持つ職務責任を全うすることに全力投球し、成し遂げていくという約束です。全社員がそのような人材で固まっていれば、組織全体が一つの方向に向き、必ず発展させていくことができます。
反対に、スキル偏重の教育をすればするほど、より良い条件や待遇を求めて、力をつけた社員が離れてしまうでしょう。幹部クラスの離職が多い組織は、このスキル偏重教育の罠に囚われている可能性が高いです。
スキル教育ももちろん大切ですが、いかに人格教育とのバランスをとれるかが、育成のポイントと言っても過言ではありません。そして、そうした人格教育を果たしていくうえで何より大切なことは、経営者自身が約束を守り、理念の具現化に対して、本気で取り組んでいることだと私は思います。
どれだけ口で素晴らしいことを言っていたとしても、社員は経営者が言行一致しているかどうかを見ています。「社長のようになりたい」と尊敬される存在でなければ、まず社員が社長の言うことを素直に受け止めることはないでしょうし、思うような育成を果たすことも難しいでしょう。組織の育成力とは、まさに経営者の人格レベルそのものなのです。約束を果たし続けている生き方をしているかどうか、まずはここに焦点を当てて自らの行動を振り返ってみましょう。そして、常に社員が心から尊敬する人物を目指して、自分自身の人格を高めていく努力をしていきましょう。

自らの価値への気づきが、志を育むきっかけとなる

実際に育成に携わるうえで、どのように社員にかかわるとよいのか。ここがまさに経営者の腕の見せどころです。私たちは人を変えることはできません。つまり、力をつけさせることも、志を持たせることもできないのです。本人が心から成長したい、志を持った生き方がしたいと思わない限りは、どれだけ刺激を与えようとしても意味はありません。その場では言うことを聞いてくれるかもしれませんが、刺激を与える存在がいなくなると、すぐにもとに戻ってしまうのです。夢も志も、目指すという気持ちも、全て本人の中からしか生まれないのです。ではどんなときに、そのような気持ちが育まれのかと言うと、私は「自分の本当の価値に気がついた瞬間」だと思います。世の中の多くの人は、「私にはできない、そんな力をもっていない」「挑戦しても失敗するだけだ」と、自分自身を過小評価して生きています。本来できるはずのことなのに、様々なトラウマ経験から萎縮してしまい、自分にできないというレッテルを貼っているのです。そうしたマイナスの思い込みを払拭して、「私にはもっとできる」「私にはもっと人の役に立てる力がある」と、自分の本当の価値に気がついたとき、人は未来に向けて明るいビジョンを持つ動機が生まれるのです。この価値ある自分をもっと活かしていきたいと、思うでしょう。これが、志を育んでいく土台になるのです。
一方的な指示命令をし続けるよりも、一人ひとりの社員がどれだけ尊い存在なのかを信念を持って伝え続けましょう。そして、小さな目標達成を積み重ねて、人の役に立つ喜びを体感してもらい、健全な自信を形成する支援をしていきましょう。その成長している実感が、前向きのエネルギーを生み出します。そして、さらに高い目標への挑戦を促し、その繰り返しにより志が磨かれていくのです。

真に志に共感している人は、必ず残り成功していく

組織の掲げた志を社員に伝え浸透させていくプロセスでは、必ずと言っていいほど、価値観や意見の食い違いが生まれます。人の数だけ考え方があるので、これはある程度は仕方がないことです。実際にアチーブメントでもこれまでに価値観の相違により離職していく社員がいました。経営者からすれば、「辞めたいです」という相談が一番心を痛めるものです。手塩にかけて育ててきた社員であればあるほど、それは耐え難い苦痛でしょう。しかし、組織というのは、ある程度は健全な入れ替わりが必要です。もちろん、離職ゼロを実現できるのであれば、それに越したことはありません。しかし、退職希望者の声に耳を傾けすぎて、組織の基準をゆるくしてしまったり、曲げてはいけない方針まで曲げてしまったりすることは、本末転倒です。それでは、真に志に共感している人材まで失いかねません。
社員を大切にし、しっかりと声を聞くことは大事ですが、決めた道を信じて突き進む
強さが経営者には求められます。ついてきてくれる社員を、給料の5倍の付加価値を生み出せる人材に育てていくこと、それが社員を物心両面の豊かな人生に導く唯一の方法なのです。
本当に深く共感してくれている人材であれば、少しのことでは辞めたりはしません。必ず残り続けて、成功を掴み取ってくれます。アチーブメントでも、そうして数多の葛藤を乗り越えてきた社員が幹部へと上がってきているのです。志を貫いた先にある一時のすれ違いを恐れずに、強く推進していきましょう。

規模が小さくても、社員を守れる会社を目指す

そのような信念の経営を貫くことを前提として、私がずっと大切にしてきたこと、それは育てると決めたら自分からは絶対に諦めないことです。社員をコントロールしようとせず、人格の形成に焦点を当てて育てていくこと、物心両面の豊かな人生を送る力をつけてもらうこと、それが採用する責任だと思います。迎え入れた社員は、必ず育てると決めて、守っていきましょう。そのためにも、無理に組織を拡大しようとしないことです。目先の利益に流されてしまわぬよう、確固たる指針を持ち、急がず焦らず着実に組織の中核を担う人材から育成し、固めていきましょう。
経営者が自らの器を超えて、組織を拡大しようとしたときに、組織は崩壊していきます。たとえ規模が小かったとしても、信じてついてきてくれる社員の生活を必ず守りきる会社。それこそが、良い会社なのではないでしょうか。身近な縁ある人を大切にする経営を貫いていきましょう。

青木 仁志
北海道函館市生まれ。若くしてプロセールスの世界で腕を磨き、トップセールス、トップマネージャーとして数々の賞を受賞。その後に能力開発トレーニング会社を経て、1987年にアチーブメント株式会社を設立。会社設立以来、43万人以上人財育成、5000名を超える中小企業経営者教育に従事。自ら講師を務める公開講座『頂点への道』講座スタンダードコースは28年間で700回毎月連続開催達成、国内屈指の公開研修へと成長。現在では、現在では、グループ4社となるアチーブメントグループ最高経営責任者・CEOとして経営を担うとともに、 一般財団法人・社団法人など3つの関連団体を運営している。