財務のプロが語る、逆境の時代に生き残る経営の本質

コロナの感染拡大により先行きが見えにくい状況の中、財務戦略は多くの経営者にとって最大の関心事の一つではないでしょうか。こうした逆境の時代、変化の時代を生き抜くために必要な、経営の要諦とは一体なにか。様々の企業の上場やM&Aを支援してきた財務のプロフェッショナルである仙石実氏に話を伺いました。

仙石 実
南青山アドバイザリーグループ CEO 公認会計士/税理士
2002年、監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)に入所。東証一部上場企業等の各種法定監査業務、株式公開支援業務、外部向け研修サービスに従事。2011年、コンサルティングファームにパートナーとして参画し、事業会社、銀行等の組織再編における会計・税務アドバイザリー業務に従事。2013年には、南青山FAS株式会社、南青山税理士法人の代表に就任する。現在は、上場・非上場を問わず、多数の取引先の会計税務支援サービス、IPO、M&Aの支援を行っている。また、セミナー講師としても活躍しており、自身の豊富な実務経験を活かした実践的でわかりやすい講義が人気を集めている。

新たな価値の創造が求められる時代

私がCEOを務める南青山グループは、会計税務支援業務やIPOコンサルティング業務、M&Aアドバイザリー業務、デューデリジェンス業務などの幅広い分野でソリューションを提供している「財務のプロフェッショナル」です。そうした立場で様々な会社を見ていて、常々感じていることがあります。それは、「顧客が求める価値を提供し続けている」企業は、豊かな経営を実現させているということです。そして提供する価値を向上させる努力を継続することで、得られる対価を高めています。自らバリューアップできる体質を築いているんですね。私がこの度共著を出版させていただくアチーブメント社の青木仁志社長は企業経営について「価値を創造する行為」であり、「お金=価値」と表現されていますが、まさにその通りだと実感しています。
今般、新型コロナウイルスの影響によって社会環境が大きく変化し、消費者のマインドやライフスタイルは大きく変わりました。それに応じて、企業が生み出していくべき「価値」も、変化せざるを得ない状況が生じています。これまで構築してきたモデルが、通用しなくなるという状況に直面されている方も少なくないことでしょう。その際、従来のやり方を見直して新たな価値を打ち出すことができるのか。それとも「価値の創造」という基本を忘れて、目先の節税ノウハウや投資テクニックに走るのか。この選択の違いは、後の事業展開に大きな影響を及ぼすことになります。たとえば飲食業界ですが、他の業種と比べても厳しい状況が喧伝されているのはご存じのとおりです。しかしその一方、他店の撤退によって空いた好立地のスペースに出店することで、攻勢に転じようという外食企業もあります。まさに逆転の発想だといえるでしょう。また最近はオンライン上でセミナーを開催するウェビナーというスタイルが伸びています。コロナ禍のビジネスシーンにおける非対面のニーズをとらえて、今後も躍進するはずです。変化をいち早くとらえ、自ら変わっていける企業こそが生き残っていけるのです。

数多くの経営者に向けてメッセージを伝え続けてきた

逆境の時こそ理念をベースにした経営が重要

新型コロナウイルスの感染拡大により、企業業績が受ける影響は今後さらに深刻化すると予想されています。先行きが見えにくい状況のなか、自社の財務管理に不安を感じている経営者はますます増えることでしょう。私たちのもとにも、資金調達や運用、税務などの相談が日々寄せられてきます。財務のプロである当社としては、もちろんご要望に合った提案をさせていただきます。しかし、そうした財務の専門知識以上に大切だと考え、お伝えしていることがあります。それは「企業理念」の重要性です。経営にはその土台に、価値観としての「企業理念」があり、その上に将来のありたい姿である「企業ビジョン」が構築される。この2つは企業が追求すべき「目的」である──。そのようなアチーブメントピラミッドの理論に、大いに共感しているからです。私は企業に対してよく「キャッシュフロー経営」の重要性を説くのですが、キャッシュフローとはその事業の「目的」に対する社会的評価だと換言できます。どれだけ社会に評価される事業をつくれるかで、将来的にその会社へもたらされるキャッシュフローの総量が決まります。事業の根底にある経営の「目的」は、極めて重要だということがわかるでしょう。ですが、そこが曖昧な経営者がとても多いのが実情です。そうした状態で小手先の経営手法に走っていくと組織はまとまりませんし、事業の長期的な成長は望めません。逆に企業理念を定着させ、メンバーが目的を共有できている企業は逆境にめげない逞しさをもっています。また揺らがない軸をもっているからこそ、環境の急速な変化にも対応できます。企業の成長にとって財務戦略はとても大切ですが、企業理念を土台としてこそ、活きてくるものだと確信しています。

仙石氏が代表を務める組織は50名を超えるスタッフが在籍しており、顧問契約数は600社を超える
仙石氏が代表を務める組織は50名を超えるスタッフが在籍しており、顧問契約数は600社を超える

お金を追うのではなく、まず自身の価値を高める

先に企業理念の大切さを述べましたが、当事務所では「専門性」「誠実性」「迅速性」を理念として掲げています。
お客様のお話を誠実に伺うことで、その方が抱える悩みや課題が見えてきます。そうした課題を解決するために、専門的な知見を駆使して真剣に取り組み、期待以上の価値を提供するという姿勢を私たちは貫いています。そうした誠実さや真剣さというものは、お客様に必ず伝わります。たとえ料金設定が高かったとしても「それだけやってくれたんだから、しっかり払います」となる。経営者に寄り添い、顧客が抱える課題と真摯に向き合って、自分たちができる最善を尽くす。そこで得られる顧客満足度が信頼感につながるのです。お金を追うと、お金は逃げていきます。ですが、顧客満足度が高い仕事をし続ければ、お金は自然についてきます。
当社のそうした取り組みの原動力になっているものは、お客様の笑顔です。クライアントの課題を解消して、そこで一緒に喜びをシェアできるということが大きなエネルギーになっています。それを繰り返すうちに、私たちのファンが増えていく──。よく青木社長が話す「BtoF(ビジネス トゥ ファン)」というスタンスで、仕事ができることが理想ですね。
私たちが扱っているのは無形商材です。形がないサービスにとっては信頼こそが何よりも大切で、それがなくなったらどんな提案も説得力をもちません。そして信頼性は、長い時間をかけてコツコツと育んでいくものだと考えています。それと同様、チャンスや成功というものも、すぐには手に入りません。地道に自分自身の「信頼資産」を積み上げるとともに、いろいろな方との交流を通して「人的資産」を広げていく。そうした活動が、ある時に素晴らしい成果となって結実するものだと信じています。私は『頂点への道』講座を受講したことで、自分が試行錯誤しながら行なってきたことを体系的に整理できるようになり、自身の価値をより高めることができました。またそうしたことがご縁となって、今回、青木社長と共著というかたちで書籍を出版することになりました。こうした幸運は、自分の仕事と誠実に向き合ってきたからこそ、得られたものだと感じています。
コロナ禍で多くの経営者が厳しい環境に直面していることと思います。ですがそうした状況は、何を目的として生きるのかという自身の根幹や、自社の目指すところを振り反って見る良い機会です。それを再認識することで、より強いパッションが生じてくるはずです。コロナの時代を打破していくためにも、そうしたエネルギーがいま社会に求められているのだと思います。

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