苦しいときほど「理想」を見よ 倒産危機から黒字決算までの大逆転劇

マザーズ・東証一部双方での上場を果たし、
「グローバルWiFi」の名を世に轟かせた佐野氏。新型コロナウイルスによる需要の激減で、
経常利益40億円から、毎月10億円の赤字寸前にまで業績が落ちる深刻な打撃を受けました。
「万事休す」と誰もが思う状況を佐野氏は打破し、結果的に通期での黒字を達成されました。
一体何を行い、そして何が佐野氏を後押ししたのか。お話を伺いました。

築き上げたビジネスが崩れ去っていく危機

「もう誰も海外旅行なんて行けなくなる」そんな声が囁かれ始めた2020年の初め。厳しい戦いが待っているだろうなという予感は、間も無く的中しました。グローバルWiFiを主商品として一部上場まで成長した弊社は、海外旅行をされるお客様に支えられてこそのビジネスモデルです。しかし、2021年2月の調査によると、新型コロナウイルスの影響により、出国者数は98・4%も減っています。もちろんその影響で弊社のビジネスにも大きな打撃がありました。年間売り上げ273億円のうち177億円をグローバルWiFi事業が占めており、6割以上の売り上げを落としました。月間10億円の赤字が計上されてもおかしくない状況にまで陥っていたのです。これまで、試行錯誤を経て積み上げてきたビジネスモデルや組織が、瞬く間に崩れていく様子に、虚しさと悲しさと苦しさと、さまざまな感情が押し寄せてきます。この危機をどう乗り越えるべきか、まさに創業以来最大の正念場といっても過言ではありませんでした。多くの社員やその家族のために、前に進むしかないと自らを奮い立たせていたのを覚えています。

客観的に状況を把握することが対策の第一歩

まず取り組んだのは、この危機に対してどれくらいのスパンを見て対応するのかという判断です。一時的なもので1年以内に収束する場合と、もっと長期的に続く場合とでは、対策が全くもって異なってきます。今回の新型コロナの騒動は、短くても1年・長ければ5年続くと見ました。そこから下した決断の一つが、グローバルWiFi事業そのものを縮小するということです。つまりは、持ち堪えるのではなく、別事業にそのリソースを転換するということです。そして力を入れていったのが、サブスク型のWeb制作サービスやテレワーク用の法人向けWi-Fiレンタルサービスで、また全くの新規領域として、オンラインを活用した会議や営業・IR活動などの通訳・吹替を行うサービスも新たに立ち上げました。自社の強みに焦点を当て、市場のニーズに応えることを念頭に、あらゆる方策を考えた結果として、数々の試行錯誤を経て形になっていったのです。おかげさまで、2020年の12月にはグローバルWiFi事業が単月での黒字に転じ、2020年の決算でも経常利益2億7000万円まで回復させることができたのです。もちろん、前年と比べれば大きくマイナスですが、通期での黒字に転換できたことは、全社員とお客様の協力があって、成し遂げられた誇れる達成だったと思います。

苦境のときほど「3つの原動力」に立ち返る

危機的状況は大体が、予想がつきづらい物です。そうなったときに、組織のリーダーとしてどのような心構えを持つのかというのは非常に重要なことであると思います。弊社はこれまでも幾度も逆境を経験してきましたが、その度に私が大切にしてきたのは、「やりたいこと」「できること」「やらなければいけないこと」の3つの原動力に立ち返るということです。
組織には必ず存在理由があり、そこで働く人も、何かしらの理由があるはずです。それが「やりたいこと」なのだと思います。弊社の企業理念は、「世の中の情報通信産業革命に貢献します」です。この目的を果たすことが全ての事業の土台にあります。そしてその先に縁ある多くの方々の幸せがあると、私たちは信じているのです。「できること」は言うまでもなく、自社の強みです。弊社で言えば情報通信において培ってきた技術がまさにそうです。そして、最後に「やらなければいけないこと」ですが、これは一言で言えば市場のニーズであると思います。コロナ禍で、リモートワークが当たり前になり、デジタルでのコミュニケーションが増えました。その分企業と個人が求めるものは変わってきているはずです。そのニーズをしっかりと把握することで、次の一手をどう打つべきかがわかってきます。
このような3つの観点で物事を考えたときに、「私たちがやらねば誰がやるんだ」という使命感が湧き上がってきます。その使命感こそが、これまで見えなかった未来を見据えることができ、そして本来の力を発揮させてくれる何よりも重要な原動力であると思います。苦しいときほど、この原動力に立ち返る、それこそが逆境を生き抜き、環境の変化に適応していくことなのだと思います。

新しく立ち上げた『通訳吹替.com』
株式会社ビジョン 代表取締役社長兼CEO 佐野 健一
1969年鹿児島県生まれ。私立鹿児島商工高等学校(現:樟南高等学校)を卒業後、1990年株式会社光通信入社、すぐにトップ営業マンになる。1995年静岡県富士宮市で起業、株式会社ビジョン設立。電話回線、法人携帯事業、電話加入権、コピー機などの通信インフラディストリビューターとして、WEBマーケティングやCRMの仕組みによるモデルで業界トップクラスの販売実績を誇る。2012年より海外用モバイルWi-Fiルーターレンタルサービス「グローバルWiFi®」を開始。日本を含む200以上の国と地域でサービス展開をし、2015年12月東京証券取引所マザーズ市場へ上場。2016年12月同取引所第一部へ市場を変更。