自信や可能性を奪わせない!宇宙開発で子どもたちの夢を守り続ける

株式会社植松電機 代表取締役 植松努

北海道のいち町工場で、本業の傍らで宇宙開発をし続ける植松氏。お金が稼げるわけでもなく、ゼロからのチャレンジでリスクある事業になぜ情熱を注いでいるのか?植松氏の描く未来、そして、その挑戦へとかき立てる理由が語られた。

〝作ること〟が何より好きだった

生まれつき右眼の視力が悪く、遠近感があまりないため、球技がとても苦手でした。
体育の授業で、ボールが飛んでくると、周りに怒られたり馬鹿にされました。
悲しかったです。

しかしそんな僕は、ものを作ることが得意でした。
僕が子どものころは、祖父と父が今の植松電機で、自動車修理業と電気機械修理業を営んでおり、周囲にも物づくりに長けていた人が多かった。
「世の中にあるものは、方法がわかれば誰でも作れるんだよ」と言われてきました。
紙飛行機や、ペーパークラフトを始め、ついには溶接も、子どもながらにやらせてもらい、そんな経験をするうちに物づくりの素晴らしさに惹かれていきました。

そして大人になり、植松電機に入社をしました。
リサイクル事業で使うマグネットを開発し、後に社長になりました。
当然経営は初めてで、うまくいかないことだらけ。

取引先に騙され、2億の借金を背負いました。
自分を責め続け、なんとかしなければと、資金繰りのために全国を飛び回り、たくさんの非難を浴びました。
「今日この飛行機墜ちてくれないかな」と移動のたびに思っていました。
しかしそうはならず、家族と社員とを守るのに必死に生きる毎日でした。

ある一人の男の子が変えた僕の運命

やがて徐々に社会を知った僕は、人を騙すことも蹴落とすことも覚え、手段を選ばなくなりました。
お金は確かに手に入りました。
しかし一人ぼっちでした。

そのころ、知人の誘いで児童養護施設のボランティアに参加しました。
そこの子どもたちは、虐待を受け、身も心も傷ついた子たち。初めは誰も近寄ってきませんでした。
それでも関わるうちに少しずつ仲よくなり、やがてスキンシップを求めてくれるようになったのです。

「よいことした」と思って帰ろうとしたとき、一人の男の子が夢を聞かせてくれました。
それは「もう一度親と一緒に暮らすこと」でした。
酷いことをされた親をまだ愛しているのかと驚きました。
いくらお金を寄付しても、彼の欲しいものを買ってあげても何の解決にもなりません。

私は一体何のためにお金を稼ぐのかと、ひどく混乱しました。
必死に考え、たどり着いたのは、彼の両親はきっと周囲からネガティブな言葉をたくさん浴びせられて育ったんだなと言うこと。
それは、振り返ると自分の経験と重なりました。
学生のころ「飛行機やロケットの仕事がしたい」と夢を語る僕に、周囲の大人たちは「お前の成績では、どーせ無理だ」と言いました。

「どーせ無理」それは人の自信を奪い、可能性を閉ざしてしまう恐ろしい言葉です。
自信をなくした人は、自分より弱い人を責め、奪うことで自分を保とうとします。
その究極の対象が子どもたちだと思うのです。

宇宙開発は夢ではなく、子どもたちの夢を守る手段

多くの子どもが 一度は宇宙に憧れを抱きますが、お金があり、頭の良い人だけが出来る仕事と思い込みを持ちます。
それはやったことのない人が教える適当なやらない言い訳です。

だから僕たちは、「北海道の田舎で、たった20人で宇宙開発をやっているんだから、無理なんてないんだよ」とこの事業を通して、夢を追う大切さを伝えています。
「どーせ無理」がなくなれば、いじめや虐待や戦争がなくなるかもしれないのです。

私たちは、世界でも珍しい固形燃料ロケットを作り、打ち上げています。
人工衛星も作りました。世界に3つしかない無重力実験装置も自分たちで頑張って作りました。
そうして、気がついたら世界中の研究者が集まるようになったのです。
いち民間企業ですが、環境や条件に縛られず、宇宙という夢の世界に挑戦を続けています。

子どもたちを受け入れて定期的にロケット教室を行う
子どもたちを受け入れて定期的にロケット教室を行う

諦めない生き方はすべての人ができる

生まれたときから、諦め方を知っている人はどこにもいません。
しかし、多くの心ない人から批判や否定をされるうちに、諦め方を覚えてしまうのです。
失敗すると責められる、怒られる、そんな文化が世の中の当たり前になってしまったからです。

ですが、失敗を避けると、挑戦せず、何もできない人になります。
同じことしかせず、成長しない人になります。
言われたことしかせず、考えない人になります。
失敗を避けるとはそれだけ恐ろしいことなのです。

人は生まれたとき、立つことすら未経験のことです。
そこに挑戦するということは、失敗があって当然です。
失敗はだめなことでもなんでもありません。失
敗をして自分を責める必要もありません。

失敗をデータとして捉え、次に向けて予測して備えられればすべて学びに変わり、力になるのです。
だから、失敗を恐れずに積極的に挑戦してほしい。
そんな思いから、子どもたちを対象にしたロケット教室を行っています。
自分にはできないと思っていたことが、できるようになる経験なのです。

未来のことは誰にもわかりません。
いつ新しい出会いがあるかわからないし、奇跡が起こるかわかりません。
だからこそ自分を過小評価して夢や希望を諦める必要はないのです。

自分が思い描いている限り、必ずチャンスは訪れます。
どれだけ批判されようと必ず形になると信じています。
やりたいことがあれば、それを好きなだけやってみたらいいと思います。
本気でやれば、必ず力になってくれる仲間が現れます。
それは偶然ではなく、そう思い続けて、夢を持ち続けたから実現できたことなのです。

僕たちはこれからも、この事業を通して、多くの子どもたちに夢を育み、自分の可能性を信じて挑戦する大切さを伝えて続けていきます。

 

植松努(うえまつ つとむ)
株式会社植松電機 代表取締役。全国各地での講演やモデルロケット教室を通じて、人の可能性を奪う言葉である「どーせ無理」をなくし、夢を諦めないことの大切さを伝える活動を展開中。また、2010年4月より「よりよくを求める社会」の実現に向けて、赤平にて「住宅に関するコスト1/10、食に関するコストを1/2、教育に関するコスト0」の実験を行う「ARCプロジェクト」を開始している。