京都市中京区に店舗を構える、甘納豆専門店「斗六屋」。
専門店の数が減少の一途をたどるなかで押し寄せてきた新型コロナウイルスによる経済危機。
あげればきりのない数の撤退すべき理由が目の前に広がるなかで、
4代目代表である近藤健史氏が選んだのは、事業の目的に立ち返り、
新たな価値を提供していくという道でした。
結果的に異例の成長を遂げ、メディアの注目を集めてきたその逆転のストーリーを伺いました。
コンプレックスが自信に変わった瞬間
毎年恒例の地元の祭への出店を初めて手伝ったときのこと。「そんなに売れないだろうな」と思っていたのですが、数千人の方が訪れて、皆さん口を揃えて「今年も美味しい甘納豆をありがとう。毎年楽しみにしてる。」とおっしゃってくださったのです。商品が売れることも驚きでしたが、それよりも、ここまで多くのお客様に慕われているということに、心から感動しました。「人に喜ばれる素晴らしい仕事じゃないか」それまで恥ずかしいと思っていたことが、誇りに変わりました。それと同時に、これまで自分が好きなことを好きなだけやらせてもらえたこと、研究にひたすら打ち込めたこと、これはすべて家業のおかげだったということが、身をもって分かりました。片親で私を育ててくれた母をはじめ、家族みんなが人生をかけて続けてきたからこそ、そしてこの甘納豆があったからこそ、自分がここにいる。その本当のありがたみを知れたときに、恩返しをしたいと家業を継ぐ決心をしました。
「クオリティ」を追求する一点に注力した選択
しかし時代の変遷とともに下請け生産が増え、そこで求められるのは高品質というより、そこそこの品質で低価格な商品。事業の存続という意味ではもちろん必要で、大切な仕事なのですが、未来を考えたときにこの延長線上には、本来目指している発展はないなと思っていました。家業に入ってまだ間もないときです。一体何が正しい選択なのだろうと、葛藤しました。アチーブメント社の『頂点への道』講座を受講し、何度も何度も「事業の目的」を自問自答し、自分が本当に大切にしたいことは何かと考え続けました。そうして、徐々に、事業形態を変えていく必要がある、創業の理念である「都名物」にふさわしい高いクオリティを追求する自社ブランドでやっていく必要があるという思いが強くなっていったのです。
そんなときに、新型コロナウイルスによる外出自粛の波が押し寄せてきました。言うまでもなく、弊社も影響を受けました。主な販路の一つであった百貨店が閉店。その売上が0の期間が数か月続きました。また工場直売所を開いていましたが、以前にも増してなかなかお客様がいらっしゃらない状態になっていました。今こそ変わるときだ。そう思って、まず、ほとんどお客様が来店されない時間帯は営業しないと決めたのです。営業時間は約半分になり、空いた時間で取り組んだのが、自社ブランド商品・サービスの開発と発信でした。価格で勝負するのではなく、品質を高める、すなわち美味しさで勝負をし、ご自宅で手軽にお取り寄せいただけるお得な詰合せサービスなどをスタート、SNSで発信し協力を求め、オンラインショップの売上が、0になった下請け分を補うほどになりました。
思い切った決断ではありましたが、私たちの強みがどこにあるのか、そしてどうありたいのかを考えたときに、高い品質を活かせる自社ブランドで勝負をする以外にはないと思ったのです。加えて、変化と適応が求められる状況も、追い風になりました。
巡ってきたチャンス、掴んだ未来への光
世界に誇れる事業を追求し続ける決意
振り返ると、家業を継ぐと決めたときから事業をやめる理由は、あげればきりがありませんでした。若者に人気がないから、同業他社がどんどん廃業していくから、コロナ禍で来客が少ないから。どれも真っ当な理由であったと思います。しかし、この状況のなかであっても、自分はどうしたいのかと問われると、「家業、家族に恩返しがしたい。もっと豊かにしたい。甘納豆で一流の店にしたい。」という想いがやはり浮かんでくるのです。私にとっては、これだけで十分でした。歩みは決して早くはないかもしれませんが、着実に前に進んでいる自負があります。この家業や甘納豆への誇りを胸に、自分だからこそできる発信を、これからも日本に、世界に伝え続け、業界の見通しに、そしてより多くの方のお役に立てる存在になります。