信念の力で夢を現実に コロナ禍をチャンスに変えた 上場戦略

世界的な経済危機のなか、日本企業として21年ぶりの米国ナスダック上場を果たした株式会社
メディロム。リラクゼーション業界の地位をゼロから築き上げ、華々しい成功を遂げていますが、その裏側には数々の試練がありました。すべてに打ち克ち、成功を収めてきた逆転のストーリーを伺いました。

株式会社メディロム 代表取締役 CEO 江口 康二
1973年生まれ。東京都出身。新卒で自動車流通ベンチャー企業に入社。同社のインターネット事業部長に就任後、独自に開発したビジネスモデル特許「プライスダウン・オークションシステム」で「日経優秀商品・サービス賞」を受賞する。その後、最年少役員の経験を経て独立へ。 2000年に株式会社メディロムを設立。リラクゼーションスタジオを全国に302店舗展開。(2021年1月末現在)一般社団法人日本リラクゼーション業協会の理事としても活躍をしており、業界の地位向上へと繋げている。2020年セラピストを題材とした映画「癒しのこころみ」でプロデューサーとしてデビューする。また、同年の12月29日にNASDAQ Capital Marketにて新規上場を果たす。21年ぶりのダイレクト上場という快挙を成し遂げ、現在日本法人唯一のNASDAQ上場となる。2008年6月『頂点への道』講座 初受講。

ナスダック上場に向けて一つひとつハードルを越える

会社を創業して20年が経ちました。おかげさまで、2020年の12月29日に、日本企業としては21年ぶりとなる米国ナスダック市場への上場を果たし、多くのメディアに注目していただくことができました。これだけ見ると、とても華々しい結果なのですが、実はこの上場の挑戦は2006年からスタートしていました。上場に至るまでさまざまな試練がありました。まず、リラクゼーションという業界や仕事は、いまでこそ世の中に広く認められ必要とされている仕事になってきましたが、当時はまったくそうではありませんでした。社会的な認知が低かったことはもちろん、リラクゼーションという産業分類がそもそも存在せず、サービスに対する誤解も非常に多かったのです。ですから働く社員にとって、誇りを持って働ける職場環境を整えたい。通ってくださるお客様に心から満足してもらえるサービスを提供したい。そのために業界そのものの社会的地位向上を果たす一手として、「上場をすることが必要だ」という想いから、この挑戦が始まったのです。
まず、東京証券取引所に上場申請をするためのディスカッションを行ったのですが、「おたくの業界では上場なんて難しいですよ」という一言からはじまりました。「ではどうしたら上場ができるのですか?」そう問いかけると、「世の中に認められる状態を作ってください。業界団体を立ち上げることや、自主規制や補償制度、産業分類や職業分類も新たに設ける必要がありますね」という返答でした。それならばと、2007年に一般社団法人日本リラクゼーション業協会を設立し、業界に属する多くの企業と手を取り合って、お客様目線・従業員目線に立って、さまざまな制度を制定していきました。そして、2010年には「リラクゼーションセラピスト」が職業分類に設置され、2013年には、金融業・運送業・サービス業といった産業分類のなかに「リラクゼーション業」という分類が設置されたのでした。
与えられた課題を、長い時間をかけて一つひとつクリアしていったものの、上場の最終条件として国からリラクゼーション業が「あはき法」に抵触しないとの文書回答を必要とするとあり、厚生労働省、経済産業省、内閣府などの各省庁に対して団体として陳情を行いましたが、文書回答を得られないままさらに3年という月日が流れていました。
私にとって上場は、できたらよいという程度のものではなく、業界そのものの社会的地位向上のために絶対に成し遂げるという信念を抱いていたので、世界に目を向けることにしたのです。そう、米国市場です。市場関係者にアプローチをしてみると私たちのチャレンジに対してとても肯定的な反応を示してくれたのです。法律や業種の壁はすでに乗り越えてきていたので、行く手を阻むものは何もなく、チャレンジする志さえあれば受け入れてくれる状態にあったので迷わずに挑戦をしたのです。結果として、日本企業として21年ぶりにナスダック市場への直接上場が果たされました。

逆境はときに志を果たす絶好の機会になる


実は、この上場の物語を後押ししてくれた存在があります。それが、新型コロナウイルスによる打撃です。私たちの事業は、お客様にお越しいただいて施術をさせていただくサービスですので、もちろん来客数が減れば売上が下がります。2020年の4月と5月の売上は前年対比で3割程度まで落ち込み、まさに逆境と言われる状態でした。このなかで私たちは「いまこそ上場に向けて、最大限の準備ができるタイミングだ」と考えました。一般的には、先が見えない経済状況になれば、防衛モードに切り替えて事業縮小をしたり、リストラをしたりと、小さく縮こまってやり過ごすのが王道と言われています。しかし、私のこれまでの経験上、守りを固めて再度攻めに転じることができた企業は見たことがありません。そのまま衰退していく傾向が強いのではないかと思うのです。私たちはまったく逆で、勇気を持って最大限の攻めの姿勢で一歩踏み出していこうと心に決めました。これまでは通常業務と上場戦略を半々くらいで力を割いていたところを、一気に上場に舵を切り、全力で上場業務にあたるという賭けにでました。さらに一人たりともリストラを敢行せず、全員の雇用を守ることをいち早く表明しました。この動きが社員たちの安心となり、結束力が高まりました。結果的に12月期には年度で過去最高の業績を残すことができたのです。コロナ禍は一見すると逆境に見えますが、本当にやりたいことに集中し、未来に対して投資をする絶好の機会だったと私は思うのです。

苦しいときほど役に立つ存在であるか

人は苦しいときほど、本性がでると言われています。業界全体としても、経済危機の煽りを受けていないかと言われれば、決してそうではありません。しかし、おかげさまで、リーマンショック・東日本大震災、そして今回のコロナ禍においても私たちは成長をし続けています。何がその原動力かと問われれば、間違いなく「ミッション」と答えます。衰退していく店舗を見ていくと、どこか売上偏重の考え方を持っているように感じます。施術をとおしてどうやってお金を稼ぐのか、というところから生まれたサービスや態度は、お客様にも伝わります。それでは本当の顧客満足を作り出すことはできません。ご来店されるお客様を、いかに健康的な生活へ導いていけるのか。まさにこのコロナ禍で外出が少なくなって、運動不足の方が多いからこそ、私たちの仕事が求められているんだ。そう思えるかどうかが、衰退と発展を分けると私は思います。社内でも常にミッションのことを伝えますし、社員同士でもよく話されています。苦しいときほど、大変なときほど、いかに他者に貢献できるかどうかを考える、これが繁栄の秘訣なのではないでしょうか。
私にとって、この仕事を通じて社会に貢献していくことや、この会社を選び人生をかけて働いている仲間である社員を成長させていくことが何よりの喜びです。リラクゼーション業界の社会的地位向上は日本の健康産業発展のために必要なことで、そのために上場は達成させなければならないことでした。これからは健康産業のリーディングカンパニーとしてさらに襟を正し、業界全体の発展に貢献してまいります。