いじめや不登校という社会課題を解決するために
私が初めて選択理論に触れたのは2012年のことでした。アチーブメント社の『頂点への道』講座で出会い、その後2018年に岐阜市長に就任しました。行政に選択理論の導入を決意したのは2019年のことです。岐阜市の中学校でいじめによって生徒が自ら命を絶つという大変悲しい事件が起きました。市内ではかつてないことで、いじめ重大事態として深刻に受け止め、絶対に改善をしていく決意を固めました。そこでお力をお借りしたのが、柿谷正期先生です。公教育検討会議というものを立ち上げ、その委員を務めていただき、選択理論の観点からいかにして学校教育を良くしていくのか、たくさんの助言をいただきました。そこから、他の市で取り組んでいた小中学校に『いじめ対策監』という役割の先生を置く仕組みを導入したり、教育委員会の教育長や委員の皆様と議論をする総合教育会議の数を増やしたりしてきました。そして、様々な議論を重ねた上で、「学校・家庭・地域の誰もが生命の尊厳を理解し、互いに心を開く対話を重ね、一人ひとりが価値ある大切な存在として互いに認め合う教育を推進する」を基本方針とした岐阜市教育大綱を定めたのです。誰一人取り残すことなく、自分自身の存在の大切さを知ってほしい、そしてそれを思う存分発揮してほしいという想いを込めました。
そして具体的な施策の一つとして、『草潤中学校』という不登校特例校を開校しました。ここで大切にしているのは、勉強をする場所も形式も「自分自身で選択できる」ということです。教室でも、図書館や校長先生の部屋や自宅からのオンライン参加でも良いと。自分が最もはかどるのは一人の場所だとなればそれでも構いません。担任の先生も自分で選べます。学ぶことへのハードルを下げ、子どもたちにとって学校自体が欲求が満たされる環境にすることに注力をしました。2021年の開校でしたが、出席率は85%を超えています。そして1期目は15名いた生徒全員が進学することも実現しました。欲求が阻害されず、安心して学べる環境であれば子どもたちは自ずと伸びていくのです。
市役所職員が幸せに働きより良い市政を実現する
そして、選択理論を生かしているのは福祉分野です。現在、生活保護や困窮者の支援を行う「生活福祉課」と、ひとり親家庭を支援する「子ども支援課」と、引きこもりの方やその家族を支援する「地域保健課」の3つの部局の職員に対して選択理論の研修を実施しています。相談に来られる方は、ご自身もしくは家族が何かしらの困難に直面し、今この瞬間にお金が無くて困っているという切羽詰まった状況におられます。市としてはもちろん社会復帰をしていただく支援をしていきたいところですが、なかなかそう簡単には行かず、担当部局の職員としては、どう関わったら良いのかに非常に苦悩していました。その上、被支援者の人数も多いので、高い負荷がかかっていたのも事実です。この状況をどうにか良くしようと、WGI認定シニアインストラクターの山川遊子先生に岐阜にお越しいただき、市役所のなかで対象となる部局の職員に直接指導いただいています。選択理論を学び、それをセルフコントロールや被支援者との関わりに活かしてもらうことが目的です。理論を正しく学ぶこと、そして実践をするためにロールプレイのトレーニングをするなど、トータルに設計していただいて取り組んでいます。2年以上が経ち、研修を受講した職員は100名を超えてきましたが、被支援者との人間関係が改善され、満足できていると答える職員の割合が、5%から54%まで伸びました。職員同士の関係においても、25%から44%まで伸びたのです。機械的な支援ではなく、相手の上質世界や5つの基本的欲求を理解し、満たすように取り組むこと。それによって建設的な会話になり、スムーズに手続きが進み、支援の目的が果たされるように変化してきました。まさに「他の人の欲求充足の手助けを行いながら、自らの欲求充足をする」という選択理論の責任の概念が、少しずつ浸透してきた証拠であると捉えています。職員のなかには、これまでのやり方ではうまく行かずに悩んでいましたが選択理論を学んでから、被支援者に対して力になれている実感があると涙を浮かべながら話してくれる人もいます。これこそが選択理論が持つ大きな力であると私は思います。
選択理論という指針が未来を明るく照らしてくれる
行政という大きなテーマと言えども、その現場を担うのは人です。人と人がどうしたらよりよい関係で、より目的が果たされるのかという問いに対する効果的でわかりやすい理論が選択理論そのものであると思います。わずか2年と少しの期間ではありますが、少しずつ変化が生まれてきました。より明るい岐阜市、すべての人が幸せを手にできる岐阜市を目指して、取り組みを続けてまいります。
行政も企業経営と同じだと思う。
選択理論が指針や土台となれば、
満たし合える良好な関係が実現する。
柴橋 正直
1979年生まれ。大阪大学文学部人文学科卒業。株式会社UFJ銀行勤務を経て、2009年に衆議院議員総選挙で初当選。2018年に第21代岐阜市長に就任。「人々の幸せに貢献する」人生ビジョンに生きる。キャッチフレーズは「岐阜を動かす」。主要政策は、岐阜駅北再開発/名鉄高架化事業/史跡岐阜城跡整備基本計画/こどもファースト/ワークダイバーシティ/寄り添う福祉など。現在、2022年2月の岐阜市長選挙で再選し、第22代岐阜市長に就任。2012年8月『頂点への道』初受講。