ここまで、2社の「働きがいある会社」の取り組みについてご紹介してきました。ここからはさらに、「働きがい」を生み出す取り組みのポイントについて、アチーブメントグループ CEO青木仁志より解説いたします。
組織に恐れや強制があると、人は消極的になる
「働きがい」に関する調査・分析を世界100か国以上で行っているGreat Place to Workによると、働きがいとは、働きやすさという「快適に働き続けるための就労条件や報酬条件など」と、やりがいという「仕事に対するやる気やモチベーション」の2つから成り立つそうです。弊社もこれまで、オフィス増床や移転、報酬制度や評価制度の改訂など、時代の流れに合わせて社員がどうしたらより快適に働き続けることができるかを追求してきました。そしてそれと同等かそれ以上に重視してきたのが、働く社員一人ひとりが「自らの意思で主体的に仕事に取り組む姿勢」をもてる組織づくりです。
世の中の多くの経営者やマネジャーは「人は外側からの刺激によって動機づけられる」という前提をもっています。そして、メンバーを無理やり動かして組織の目標達成をつくろうとします。しかしこれは組織に恐れを生みます。学業やスポーツを例にするとわかりやすいでしょう。先生やコーチから強制されると、子どもは自分が置かれている環境に苦痛を感じ、逃げ出したくなります。無理やり練習させられた子どもがスポーツや勉強を好きになることはありません。これは経営やマネジメントにおいても同じです。経営者やマネジャーが立場でものをいい、強制や恐れを組織の中にもたらすと、メンバーが主体的に仕事に取り組むことはないでしょう。
人の行動を決定するものは、外からの刺激ではない
私が35年、経営やマネジメントにおいて大切にしてきたのは、選択理論心理学を土台にした関わりです。選択理論では「人は内側から動機づけられ、自ら行動を選択している」といいます。人は誰も他人をコントロールすることはできません。さきほどの組織に強制や恐れをもたらす関わりとは真逆の考え方です。
では、人は何によって動機づけられるのでしょうか。選択理論では、人は誰もが「5つの基本的欲求」をもっていると考えます。健康でいたい、長生きをしたいという生存の欲求。誰かに愛し愛されたい、組織に所属したいという愛・所属の欲求。達成や承認など、自分が価値ある存在であると認められたいという力の欲求。精神的・経済的にも自由でいたいという自由の欲求。学習や成長など主体的に喜んで何かを行いたいという楽しみの欲求。この5つは誰もがもっていますが、求める度合いは人によって異なります。そして、この5つの基本的欲求を1つ以上満たす人やもの・価値観などが入ったイメージ写真の貼り付けられた記憶の世界を「上質世界」と呼びます。例えば、生まれたばかりの子どもは、お世話をして自分の欲求を満たしてくれる相手を好きになります。
「上質世界」に仕事が入れば、人は自ら動き出す
私たちは上質世界にあるものを得るために行動を選択しています。グラッサー博士は、仕事を上質世界に入れずに社員が働き者になることはない、と言いました。「好きこそものの上手なれ。嫌いは下手の証拠」という言葉にあるように、回避モチベーションが働く状態では主体性は生まれず、仕事のクオリティは期待できません。
ですから、上質世界に仕事を入れてもらえるようにサポートするのが、マネジャーの役割です。そのためにはまず、社員が誇りをもてる組織を目指すことです。私は35年間、経営の目的は利潤の追求ではなく理念の具現化であると考え、社員幸福度・社会貢献度・顧客満足度を追求してきました。弊社のコーポレートスローガンは「教育の力で世界を変える」です。誰のために、何のために、なぜこの組織が存在するのか、「その目的をともに遂げたい」と思えるような、よい目的をもつことです。そして、社員の5つの基本的欲求を満たす支援をしてください。仕事をとおして欲求が満たされるからこそ、メンバーは仕事を好きになるのです。
ぜひ、モチベーションを正しく理解し、選択理論にもとづいたマネジメントを実践し、働きがいのある組織をつくり出してください。
アチーブメントグループ CEO
北海道函館市生まれ。若くしてプロセールスの世界で腕を磨き、数々の賞を受賞。1987年のアチーブメント株式会社設立以来、46万名以上の人材育成と、5,000名を超える経営者教育に従事し、理念経営を志す経営者を数多く輩出。講師を務める『頂点への道』講座スタンダードコースは、28年間で700回毎月連続開催を達成したロングラン公開講座であり、新規受講生は3万6,574名にのぼる。40万部を超える『一生折れない自信のつくり方』シリーズを始め、累計65冊の著書を執筆。