【前回のまとめ】
前回の対談では、選手を一つの方向に導くマネジメント力、白井さんがチームに向けて発信した言葉について語っていただきました。3回目の今回は、白井さんの指導・マネジメントの原点となっている選択理論、決勝戦の8回、9回の継投の舞台裏を伺いました。
安心安全空間を担保することで、より内発的に行動する
白井 選択理論が試合で勝っていくことや指導など、全ての原点にあります。私はスポーツの世界で目標・達成にこだわってきましたし、さまざまな選手や指導者を見てきました。そのなかで、目標を達成する人としない人の違いは明らかです。それは、目の前の情報に対して自分がどう選択するのか、という違いです。目標を達成する人というのは、常にゴールを見据えて、目の前に起こる困難に揺れ動くことなく、自分の行動を選択できています。
青木 目標を明確にすることで、人はその目標に向けた行動を選択するようになる訳ですね。さらにいうと、他人の行動をコントロールできないということがあります。
白井 その観点も重要です。指示命令などの刺激によって選手をコントロールすることを「外的コントロール」と呼びますが、この外的コントロールを使うと相手は「恐れ」に支配されてしまいます。今回の大会で感じたのは、メジャーリーガーの選手はオンとオフの切り替えができているということです。多くの選手はロッカールームでもある程度の緊張を保ち、試合でもミスをしないようにと恐れを持ちプレーしています。結果的にオフのときには20%くらいのリラックスしかできず、オンのときにも20%くらいのエネルギーしか出せないのです。それに比べて、メジャーリーガーの選手はオフのときには100%リラックスして、オンのときには100%の力を発揮できていました。
白井 その通りです。多くの指導者は選手に信頼されたいと思うかもしれませんが、選手を信頼し続ける姿勢が大切です。今回の大会では、オンとオフの切り替えがしっかりできていましたし、これが侍ジャパンの強みでした。それができたのは、監督コーチが選手を信頼し、支援し続ける姿勢を持ち、安心安全空間を担保できたからです。
青木 選手は安心安全空間があるからこそ、100%のパフォーマンスを発揮できるということですね。白井さんが選手個人と信頼関係を結ぶうえで実践していることはありますか。
白井 目の前に選手がいたときに私が大切にしているのは、選手が掲げる目的・目標から一歩も下りず、どうやったら達成に繋がるのかという観点から真摯に関わり続けることです。そうすると、選手が内発的に行動を選択するようになります。
青木 選択理論では内発的動機づけといいますが、人は自らの内側にある「願望」に動機づけられており、この願望が明確化していくことによって、「主体性」や「モチベーション」に変化が生まれていく訳ですね。
白井 はい。この主体性を育てることが指導者にとっての一番の役割といっていいでしょう。決勝戦で8回にダルビッシュ選手、9回に大谷選手がマウンドに上がったのも、監督からの指示ではなく、選手が志願したからでした。
青木 そうでしたか。まさに劇的なストーリーのように見えましたが、そのような裏話があったのですね。目的・目標に向かい選手が内発的に行動した例だったとは驚きです。
・外的コントロールは「恐れ」を生み、信頼関係を破綻させる
・安心安全空間を担保することで、本来の能力を発揮できる
・願望を明確にし、真摯に関わることが内発的動機づけに繋がる
一般財団法人日本プロスピーカー協会顧問 認定ベーシックプロスピーカー
駒澤大学を卒業後、1983年ドラフト1位で日本ハム入団。1987年ベストナイン、ゴールデングラブ賞受賞、1991年リーグ打率3位、最高出塁率を記録。現役引退後、日本ハムの二軍総合コーチ、二軍監督を経て、2003年から一軍ヘッドコーチを務め、リーグ優勝2回、日本一1回を獲得。指導者として「可能性を開く鍵は意識の持ち方と行動力」をモットーに選手の育成に従事している。
アチーブメントグループ CEO
北海道函館市生まれ。若くしてプロセールスの世界で腕を磨き、数々の賞を受賞。1987年のアチーブメント株式会社設立以来、46万名以上の人財育成と、5,000名を超える経営者教育に従事している。講師を務める『頂点への道』講座スタンダードコースは、28年間で毎月連続700回開催達成。40万部を超える『一生折れない自信のつくり方』シリーズを始め、累計65冊の著書を執筆。
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