Section3 歴史に学ぶマスターマインド

様々な偉業を成してきた偉人たちもまた、この「マスターマインド」の力を大いに活用していました。
書籍『THINK AND GROW RICH』でも紹介されている代表的な事例を見てみましょう。

鉄鋼王アンドリュー・カーネギー
鉄鋼会社カーネギー鉄鋼は、最盛期にはアメリカ国内の半分もの鉄鋼生産量を誇り、イギリス一国の生産量をも超えていました。アンドリュー・カーネギーが築き上げたマスターマインドグループは、アメリカの工業化を急速に進展させる原動力となりました。

自身の事業を成功させるために、50人以上もの優秀な「頭脳」を結集させた「マスターマインド」グループを形成。これは、彼自身が全ての知識を独力で得るのではなく、他者の知恵を積極的に活用した結果でした。このグループのメンバーは、鉄鋼業に必要な各専門分野の第一人者たちであり、彼らは「安価で高品質な鉄鋼の大量生産」という明確な目標に向かって一丸となりました。彼らは、定期的な会合を通じて綿密な計画を立案し、その実行を推進しました。このグループにおいて最も重視されたのは、「完璧な調和の精神」であり、調和が保たれることで、個々の頭脳の合計を上回る力、すなわち「見えざる力」が創造され、メンバーは互いの潜在意識から知識を得る能力を持つようになりました。この「心の化学作用」を通じて得られた力が、カーネギーの迅速かつ的確な意思決定を可能にし、彼を業界を牽引する存在へと成長させたのです。

Point
完璧な調和が果たされるマスターマインドグループづくりに特にこだわった

自動車王
ヘンリー・フォード

「自動車を大衆の乗り物にした」ヘンリー・フォード。彼がT型フォードによって世界の交通手段を一変させることができた背景には、強力なマスターマインドグループの存在がありました。

彼は、「安価で高品質な自動車を一般大衆に大量供給する」という明確な目標を掲げ、自動車製造に必要な技術者や優秀な原材料の調達担当者、販売マネージャーなど各分野のエキスパートを巧みに結集させました。彼の有名な言葉に「何かを知りたいときにはボタンを押すと必要な知識を持った部下がやってきて、すぐに答えを教えてくれる」がありますが、これは彼が自らの頭脳に全ての知識を詰め込むのではなく、他者の専門知識を信頼し、活用したことを示しています。なかでも最も大きな資産は、協力者とともに構築した販売代理店ネットワークにありました。代理店の販売力を向上させる強力なサポート体制を創り、代わりに車両代金の前払い制度を構築。これにより販売促進と強固なキャッシュ・フローシステムの両立に成功したのです。その潤沢な資金力により、アメリカ全州に自動車を送り出すことができました。これが自動車産業に革命をもたらす推進力となったのです。

Point
自身の専門性がない分、技術者や専門家などの才能を結集させ高い目標へと挑んだ

インド独立の父
マハトマ・ガンジー

「非暴力・不服従」という哲学を掲げ、武器を持たずに当時世界最強の大英帝国から、2億人を導いてインド独立を果たした建国の父。これは世界中の人権運動や独立運動に大きな希望と影響を与え、歴史を動かした不滅の光として今なお語り継がれています。

ガンジーは、その小柄な体躯や非暴力の姿勢とは裏腹に、大きな影響力を持つ人物の一人でした。彼の持つ「驚異的なパワー」は、個人的な知識や権力から生まれたものではなく、明確な目的に向かって「調和の精神で協力する複数の人間」の結集によって獲得されたものです。「塩の行進」に代表される非暴力の運動では、当初わずか数十人で歩き始めた行進に、道中で数万もの民衆が合流。イギリスによる投獄や弾圧という死の恐怖にも屈せず、警官の棍棒に倒れても次の列が静かに進み出る人々の流れを創り出して「奇跡」を実現しました。自らも質素な身なりで糸車を回し無所有を貫くことで生まれた大衆からの「信頼」と、非暴力への揺るぎない「信仰」が人々を結集させ、偉業を成し遂げたのです。物理的な資本がなくても、明確な目的へ向かう人々の調和した協力がいかに強大な力となるかを証明しています。

Point
大衆からの深い信頼と信仰の力を活用した協力関係を築き上げた

日本における偉人の例
渋沢 栄一

日本の近代経済社会の礎を一代で築き上げた渋沢栄一。彼が生涯に約500もの企業の設立・育成に関われた背景には、「合本主義」という彼独自のマスターマインドの実践がありました。その活動は、ヒル博士の定義する要素を体現していました。

幕臣から明治政府の官僚、そして民間実業家のキャリアを持つ渋沢栄一。国家主導ではなく民間の力により「産業を育て国民を豊かにする」という公益目標を掲げ、現代の株式会社制度の礎「合本主義」を実践しました。これは資金集めだけでなく、人々の知恵や経験を掛け合わせる仕組みです。その協力体制の核は『論語』を基盤とする「道徳経済合一説」。「道理にかなった富でなければ永続しない」という信念と「公益」の追求が、人々の絶対的な信頼を集め、完璧な調和を築き上げました。こうして第一国立銀行や東京ガス、王子製紙など、今日の産業基盤となる約500社の設立を主導。彼の功績は、高い理念の下で多様な知恵を束ねることが、個人の能力を超えた偉業を成し遂げることを証明しています。

Point
利益の追求ではなく「道徳」と「公益」という高い理念を掲げたこと