[特別インタビュー]徳洲会体操クラブ 監督・ヘッドコーチ・選手が語る15年ぶりの日本一に輝いた組織変革の舞台裏

アトランタ五輪後の1998年に、日本体操協会会長に就任した徳田虎雄・徳洲会名誉理事長が、体操ニッポンの復活と一流の人材育成をめざして徳洲会体操クラブを創部した。以来、世界で活躍する選手を輩出し続ける名門体操クラブとして知られている。2015年よりアチーブメント株式会社を教育スポンサーとして迎え入れ、選手一人ひとりの「考え方」の教育に力を入れている。

日本を背負う名門、スランプからの逆転劇

五輪で活躍する選手を輩出し続けてきた同クラブだが、2016年のリオ五輪では出場選手0名を経験。スランプに陥った名門として揶揄された時期を過ごしてきたが、2021年の東京五輪では2名の出場選手を輩出し、団体銀に貢献。さらに、2022年に15年ぶりとなる体操団体での日本一を成し遂げることができた。

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4つの視点から紐解く変革の物語

一度低迷期を迎えながらも、復活を遂げてきたその道程は、まさに試行錯誤の連続であったと語る監督やコーチ。同クラブが掲げる「世界を魅了する最強で最高のチーム」というチームビジョンの実現のために、どのようにして組織の文化を変え、変革をつくり出してきたのか、4名のみなさんからそれぞれの視点で伺った。

【監督の視点】「考え方」を磨く決意、日本一達成までの10年の歩み

徳洲会体操クラブ 監督/アテネ五輪男子体操団体金メダリスト 米田 功
2004年アテネ五輪で、体操団体のキャプテンとして日本を世界一へと導く。2013年1月1日から徳洲会体操クラブ3代目の監督として就任。それ以来、技術力のみならず、考え方の指導に力を入れている。

期待に応えたい思いで走ってきた10年

監督に就任をしたのは2013年のことでした。早くも10年が経とうとしていますが、逆境の連続であったように思います。私自身、立派な監督かというと、マネジメントやチームづくりについては正直得意というわけではなく、コーチ陣や選手たちの力を借りて、いまがあります。2014年に『頂点への道』講座を受講させていただいてからは、指導者としての理想像とたくさん向き合ってきました。ついつい感謝を忘れてしまう自分と出会ったり、一人勝ちしたい自分と対峙したりと、私自身もテーマと向き合い続けてきた期間だったと振り返ります。それでもここまで諦めずに続けることができたのは、尊敬する方々からの「期待に応えたい」という一心でした。結果が振るわない時期も長くありましたが、そんななかでも、親身になって応援してくださる理事長や関係者の皆様の期待に応えていきたい。そんな思いでここまで走り抜けてきました。まさに紙一重のせめぎ合いを幾度も乗り越えて、なんとか生き残ってきたなというのが正直な所感です。おかげさまで15年ぶりの日本一に輝きましたが、私一人では到底なし得なかった結果です。ともに戦ってきた選手やコーチたちはよく頑張りました。

良い「考え方」を育み、世界の頂点を目指して

ずっとこだわってきたのは、「考え方」の教育です。トップアスリートの人たちというのは、実は技術の差は僅差であると私は思っています。プロになれる時点で、全員才能も力もあるのです。ではその活躍を分けるものが何かというと、「考え方」であると私は思います。何が原動力で上を目指しているのか。これが利己的な「認めてもらいたい」という思いだと肝心なときにプレシャーに負けやすいです。でも人を勇気づけたり喜ばせたいという利他的な想いがあれば、逆境を乗り越える力を与えてくれるのです。私自身も考え方の違いによって浮き沈みを経験してきたので、尚更確信をもって言えます。そんな考えを受講を通して言語化ができ、この教育を取り入れたいと思って、アチーブメントの研修を毎年開催いただいています。ともに歩んできたこの約10年。逆境を乗り越えて一致団結に近づいていることを心からうれしく思います。世界の頂点に挑戦し続けていきます。

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勝ち続ける「考え方」や「人間力」を身につけるための研修を
所属する全選手を対象に毎年開催している

【ヘッドコーチの視点】監督の決断を正解にする決意、自信を育むマネジメントへの挑戦

ヘッドコーチ 新宅 裕也
日本体育大学では学生コーチ、卒業後は助手を担い、指導者としての基礎を学び、2012年に徳洲会体操クラブにコーチとして入社。米田監督の思いに最も長く・深く向き合ってきており、監督の代弁者として選手育成を牽引している。

本音で接することが、指導者としての第一歩だった

ヘッドコーチという役割が自分に務まるのかどうか、そんな葛藤をずっと持ってきました。私がコーチとして入社をした当初は、何かと言い訳を見つけては真剣に練習に取り組まなかった選手が多かったです。目標を持って真剣に努力するのが格好悪い。そんな文化がチームのなかにはありました。しかし、強くなりたい勝ちたいという思いももちろんあります。どう関わったらよいのかがわかりませんでした。ヒントとなったのは『頂点への道』講座での学びでした。本音本心で語ったときに、初めて自分の気持ちが相手に伝わる。その土台にすべきは他人の評価などではなく、私がどう生きたいのかという「人生の目的」であると学んだのです。思えばそれまで監督と馬が合わずにぶつかることも多々ありました。振り返ると、「否定されたくない」「認められたい」ということを私は求めていたことがよくわかりました。変わろうと思いました。本音本心で自分と向き合ったときに、世界一を経験している監督の決断を信じて、選手たちとともに成長し続けたい、強いチームになっていきたいと思いました。ここにこだわろうと思ったときに、見栄を張っても意味がないと感じたのです。本音本心で監督とも選手とも向き合っていき、着飾らない言葉で接していきました。そうしていくうちに、本気で相手を思う気持ちが少しずつ伝わっていったのか、チーム全体の雰囲気が少しずつ変わり、選手たちの行動に変化が生まれていったのです。

監督の代弁者という役割に生き、チームとしてともに戦う覚悟

努力し全力を尽くす。その姿勢が未来を切り拓く文化をつくる。監督やコーチの皆さんとそう決めてから、チームが変わっていくまでには時間がかかりました。この間、最も意識してきたことは、監督の決断を正解にするということです。意思決定の背景や、監督の想いを誰よりも語り、選手たちに理解してもらえるように務めました。そして、技術的に成長するだけでなく、一人ひとりが自分という存在に自信を持ち、自然体で戦えるメンタルを身に付けてもらうために選択理論心理学に基づいた関わりを実践し続けていったのです。願望を聞き、今日一日の生き方がその願望実現に対して効果的だったのか。そして、もっと良くするためにどうすればいいのか。「あなたは必ずできる、私はそれを心から応援している、味方で居続ける」というメッセージです。幾度も講座に足を運んで学んでは、試行錯誤を繰り返し、少しずつ少しずつ成長を遂げてきました。全員で一丸となり、チームだからこそ活かせる自分の強みを伸ばし切ること。思う存分努力して、チャレンジしている選手たちの姿がまさに私の誇りです。さらなる高みを目指してともに歩んでいきます。

【選手の視点】「自信」と「勝つ目的」が育まれていったクラブの文化、手にした日本一の栄光

選手/キャプテン 杉野 正尭
2021年に徳洲会体操クラブ入社。持ち前の明るさと積極性を発揮し、チームが高みを目指す原動力となっている。
【主な実績】
2017年 第71回全日本種目別選手権 あん馬 1位
2019年 第73回全日本種目別選手権 あん馬 1位
2021年 第54回全日本シニア体操競技選手権大会 個人総合 2位/種目別鉄棒 1位
選手/副キャプテン 髙橋 一矢
2019年に徳洲会体操クラブ入社。安定した成長を遂げ、チームを引っ張る存在として活躍をする。
【主な実績】
2018年 全日本種目別選手権 つり輪優勝
2020年 第53回全日本シニア体操競技選手権大会 種目別つり輪 1位
2021年 第54回全日本シニア体操競技選手権大会 種目別つり輪 1位

育まれていった「自信」自然体で戦える自分へ

髙橋 「そんな大したことないから、僕の演技は見るに値しない・・・」。徳洲会に入った当初、そのように思っていました。同期の選手たちに優秀な存在が多く、常に比較をしては自信を失っていました。そんな私に、監督やコーチの皆さんがアドバイスしてくださっていたのは「自分の扱い方を変えていこう」ということでした。必ずできる、絶対できる、すでに力があるから、そんなメッセージをいただき続けて少しずつ自分のなかで自信が育まれていったように感じます。
杉野 僕も似たような経験があります。自分に自信があるように振る舞っていましたが、根底では不安でした。もっと自分に注目して欲しいと思いながら演技していたので不自然でした。今でも覚えているのが、監督に言われた「正尭はすでに見られているから」という一言です。無理してすごい自分を演出しなくても、すでに認められているから、ありのままで戦っていっていいんだと思えるようになっていったのです。

勝利の先を見続けているから今を本気で生きていける

杉野 オリンピックの金メダルは、誰しもが目指すゴールですが、目標だけでは限界があります。勝利の先に描いている未来、明確な勝つ目的が大切だと、研修でいつも学ばせていただいています。両親や恩師の笑顔など、考えれば考えるほど、力が湧いてきます。私の頑張る理由です。技術力だけでなく、人間力を高め、一人でも多くの方に喜んでもらえる存在になっていきたいと心から思います。
髙橋 「勝つ目的」や「考え方」のトレーニングなどは、これまで特にやったことがありませんでしたので、受講した研修での学びはとても新鮮でした。得意種目が吊り輪ですが、日本人は世界に通用しないと言われてきました。だからこそこの壁を超え、体操界や社会に勇気をもたらしたいと思っています。そうした取り組みもあって、15年ぶりの日本一を達成しました。ですが、まだ一歩目に過ぎません。「目的」を大切にして、目指し続けていきたいと思います。

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