「実行力の源は主体性にある」自ら考える環境づくりが指導者の使命

流通経済大学 ラグビー部 アドバイザー 松井 英幸
全国高校ラグビー大会 23年連続25回出場(指導実績)
JPSA認定 ベーシックプロスピーカー

ワールドカップで一躍、時のスポーツとなったラグビーで、高校チームを23年連続25回の全国大会出場を導き、日本代表を5名、トップリーグ選手を50名輩出してきた松井氏。まさに世界と肩を並べる実力を育ててきた影の立役者です。指導者としての活躍は、スポーツ総合雑誌「Number Web」にも掲載されていますが、いかにして選手の実行力を引き出しているのか、その秘訣を伺いました。

「心・技・体・生活」において一流であれ

40年近くラグビーに携わってきた中で、たくさんのトップ選手を見てきましたが、オリンピックやワールドカップなどで活躍していく選手と、ほかの選手たちの何が違ったかというと、身体的な素質はもちろんですが、人望があり、賢く正しく努力をして、何より人一倍考えていたというところだと思います。
それを作り上げる土台として、私は選手たちに、心・技・体・生活の4要素が大事だということを伝えてきました。

「心」とは、感謝できる心・応援してもらえる人格・何事に対しても前向きに取り組んでいく心を持っているということ。
「技」とは、高い技術力を持っていること。
「体」とは、強いフィジカルやパワー、持久力を持っていること。
そして「生活」とは、部屋をきれいにする、挨拶をする、良いリズムで生活するなどをはじめとした良い習慣を持っていること。

この4つの要素を高めてほしいと指導し続けてきました。
一流の活躍をしていく選手であればあるほど、振り返ると学生の時期にこうした要素に自ら基準を定めて、考えて、誰に何も言われなくても取り組んでいたのだと思います。

それはどこから来るかというと、やはり明確なゴールからの逆算なのだと思います。
それを主体的に取り組んでいたことが何よりのカギです。

自ら考える環境をいかに作れるか

逆説的に言えば、そうした一流を目指して日々努力し続けられる選手を育てるためには主体性を引き出すことが必要です。
そのために私は、ニュージーランドやオーストラリアの世界トップレベルのチームでのラグビー教育を学びに行った時期が長くあります。

そこで感じた日本との一番の差は、選手たちのアウトプットの量が全くもって違うということでした。
次の試合でどう戦いたいのかなどはもちろん、どんな選手になりたいのか、どんな支援がほしいのかなど、聞いてみるとどんどん出てくるのです。

なぜここまで違うのかというと、小学校・中学校のときからの、アウトプットを重視した教育のおかげだとわかりました。
「何が正しい答えなのか?」だけではなく、「私はどう思うのか?」を引き出すさまざまなカリキュラムがあり、それがスポーツ教育にも生きていたのです。

それ故に、理想の選手とはどんな姿か、そこから逆算したら自分はどう努力をすべきか、どんな能力が必要なのかなどを考えるのが当たり前の文化になっていました。
自分で考えて、自分で主体的に決めたことであれば、自ずと実行する確率は上がっていくのです。

苦い経験から確信を得た選択理論的指導の価値

日本のラグビー教育でも主体性を育んでいこうと、さまざまな取り組みをしてきました。
一例として、会議や話し合いをするときは必ず3人チームを組みます。経験上、3人で話すときが、一番全員が主体的になるからです。

しかし、「答えを教える」教育を受けてきた学生が、急に変わっていくことは難しく、私自身もそこには非常に苦労し、数々の失敗を経験してきました。
特に、熱心になるあまり、2015年には、選手に手を出してしまい、体罰問題で監督辞任に追い込まれたこともありました。
そんな人生のどん底を経て、改めて振り返ったときに感じるのは、内発的動機付けによる指導が必要ということです。

その考えに至ったのは、辞任後に受講した『頂点への道』講座で学んだ選択理論がきっかけです。

内発的な動機付けこそが実行力を引き出す一番のポイントであり、そのためには親身になって選手の願望に興味を向ける。
人間関係を破壊する致命的な7つの習慣ではなく、身に付けたい7つの習慣を使ってコミュニケーションを取り、信頼関係の土台の上で話し合えることが何より大切だと学びました。

これは私にとって衝撃的でした。
選手に対して愛情があるからこそ、強くなってほしいからこそ厳しく接し、求めるのが当たり前の考えでしたし、スポーツ界ではそれが当たり前です。

これを、人間関係により焦点を当てて、自分が持つ正しさを捨て、選手に関わっていこうとすることは、なかなか勇気がいります。
日々鍛錬を積みながら、現場で実践し、板につくまでには2年近くかかりましたが、選手やコーチとのコミュニケーションが、大きく変化していったのも事実です。

お陰さまで、今はさまざまなチームの監督やコーチをはじめとした指導者の教育を重点的にやらせていただいていますが、終始お伝えしているのは選択理論です。

選手の中にある願望を引き出し、主体的に取り組む支援こそが指導者の役割であり、そういう指導者がいるチームは必ず強くなります。
日本のラグビー界、スポーツ界にそのようなチームを一つでも多く増やしていくためにも、選択理論的指導の重要性をお伝えし続けていきます。

 

松井 英幸(まつい ひでゆき)
1961年、埼玉県生まれ。日本体育大学在学中、大学選手権にて準優勝を経験。ラグビー指導者として、流通経済大学付属柏高校ラグビー部監督として、30年間で全国大会の花園に23年連続25回出場の実績をつくる。その後、高校ラグビー日本代表監督に抜擢。ラグビーワールドカップ、7人制ラグビー、オリンピックに出場するトップリーグ選手を多く輩出する。現在は指導者育成を中心に指導者講習会の講師、産官学連携事業等に携わっている。