過ちや失敗を恐れるな。生きる醍醐味は常に未来に 〜原発ゼロ社会の実現へ〜

第87~89代内閣総理大臣   小泉 純一郎

総理大臣に就任し、郵政民営化や年金医療制度改革を実現してから十数年の月日が流れ、76歳を迎えた小泉氏。政界を引退してもなお、活動を続け日本社会に大きな影響を与えており、その勢いは未だに衰えることを知らない。一体何が小泉氏を突き動かす原動力となっているのか。その心の内が語られた。

人生の本舞台は、常に将来に在り

「もう過去の人だから引っ込んでいろ」

この年になると言われる言葉です。
思えば政界を引退してから、もうすぐ10年が過ぎます。
引退当初は、余生をゆっくり過ごそうと考えていた時期もありました。
しかし、ある言葉が私の考え方を変えてくれたのです。

「人生の本舞台は常に将来に在り」

これは、尊敬する尾崎行雄さんの名言です。
安政から昭和までを生きた日本の偉大な政治家です。
彼が樹立した衆議院選挙連続25回当選という記録は、未だに破られていません。
恐らくこの先もこの記録を破れる政治家は現れないと思います。
63年間に渡る議員就任期間も、過去最長記録です。

そんな彼が94歳の亡くなる前に揮毫したのがこの言葉なのです。

「人生の中で、活躍できる舞台は常に将来にある。そこに年齢は関係ない」
「人は何歳になったとしても、それまでの人生はあなたにとっての序幕にしか過ぎない、常にこれからの人生に本舞台があると思って行動せよ!」という力強く、信念に溢れたメッセージです。

年齢に関係なく、環境に関係なく、向上心をもって常に努力を続けること。
この価値観に私自身、何度も何度も勇気づけられてきました。
後期高齢者になった私ですが、まだ自分に果たすべき役割はたくさんあると思ったのです。
そして、私自身の人生の本舞台は常にこの先の未来にあるんだと、そう生きていく一人の人間でいようと、決意しています。

過去の過ちを正すために

総理在任期間を思うと、ひとつの心残りがあります。
他ならぬ原発推進者であったことです。
先陣に立って原発推進を唱えてきました。
専門家の話を鵜呑みにしては、「核=安全・安い・クリーンなエネルギーである」と、それが日本の発展にとって必要であると、信じていたのです。

しかし、東日本大震災でそれは間違っていると知ったのです。
エネルギーを生むときは確かに低コストでクリーンかも知れませんが、原子炉の設置や、使用済み燃料の処理など、莫大な費用と人手がかかるだけでなくリスクが伴います。
何よりも福島原発事故がその危険性を示しています。

原発推進は間違っている、それを発信しなくてはいけない。
そう思い残りの人生、命をかけて訴えることを決めたのです。

「今さら無責任だ」と言われても仕方がありません。
実際にそうかもしれないです。
かつては間違った取り組みをしていました。
しかし、本当に人の真価が問われるのはその後の行動です。

過ちを認められないことこそが、実は人生の中での一番の過ちだと私は思っています。
過ちを認めることは、恥でも何でもありません。
むしろ過ちを認めて、後からでも正しい行いをとることが、筋を通す生き方だと思います。

私は、自分が犯したこの過ちの償いを正したい、責任を取りたいと思っています。
それが今、全身全霊で脱原発を訴えることであると信じています。
そしてそれが、より良い日本を実現するとも信じています。

日本という国は可能性の塊である

かつて、1ドル360円の固定相場の時代が在りました。
円高への流れが日本にとって不利益で、経済破綻が起こるかもしれないと言われていました。
しかし実際にはどうでしょう。今1ドル100円の時代です。
それでもこの国の経済は健全に動いています。

日本車が、世界の自動車マーケットに進出できていることもそうです。
かつては「安いけど壊れやすい」と言われていた時代を経験してきましたが、努力と改善を積み重ね、長持ちするだけでなく、世界一厳しい排気ガス規制を突破し、環境にも良いというブランドを確立しました。
今では、本場アメリカで、「アメリカ車よりも日本車のほうが良い」と言って買い出しているではありませんか。

これらはすべて、日本はそれだけ変化に対する適応力が強く、成果が出るまで粘り強く努力し続ける、チャレンジをし続ける国である証です。
それは他でもない一人ひとりの国民の力の集合体であると私は思います。
だからこの国には、もっともっと可能性がある。どんな苦難も乗り越えていけると信じています。

ぜひ若い方も、年配の方も思う存分にチャレンジをし続けていただきたいと思います。

76歳を迎えた今なお、信念のメッセージを伝え続ける
76歳を迎えた今なお、信念のメッセージを伝え続ける

失敗を恐れずに大きく羽ばたけ

なにか新しいことを始めたり、やったことの無い領域に飛び込んだりするとき、今持っているものを失うことに恐れを感じるかも知れません。
しかし、失うことを恐れては、しがらみから抜け出すことができません。

私自身、最初の選挙では失敗しました。
3年間の浪人期間を余儀なくされましたが、3年間の政治修行を経て、自分の考え方を磨き、いち政治家として力をつけてきました。
結果、2回目以降の選挙から当選をし、以降12回の連続当選を果たすことが出来たのです。

総裁選も、当選するまで実は2回落ちています。
2回敗れるともうだめだと当時言われていました。
2度あることは3度あるという言葉のように、3回目も多くの人からは負けるだろうと言われていました。

ただ、たとえ負けたとしても勉強する機会を与えてくれるのであれば、本気で挑戦してみようと出馬した3回目で当選し総理になったのです。

ある意味で捨て身でした。

「失うことを恐れてはしがらみから抜けられない。しかし捨て身で臨めば何でもできる」

これは私の発した言葉でもありますが、人生はまさにその通りだと思っています。

「うまくいかない」「失敗した」と思うことがたくさんあります。
しかし、そこで挫けてはいけません。
常に向上心を持って、学ぶ心を持って、この悔しい経験をいかにして挽回するのか、真剣に考えて次に活かしてほしいと思います。

人生常に、これからです。未来だけを見据えて、自分の果たすべき大役のために、毎日を真剣に生きていきましょう。

 

小泉 純一郎(こいずみ じゅんいちろう)
第87~89代内閣総理大臣。第33回衆議院議員総選挙(1972年)で初当選し政界入り、厚生大臣、郵政大臣、外務大臣、農林水産大臣などを歴任。3度目の挑戦で自由民主党総裁に選出され、2001年4月に内閣総理大臣に就任。郵政民営化や年金・医療制度改革、財政再建、ペイオフ解禁などの様々な政策を手掛けた。政界を引退し、76歳となった現在も「原発ゼロ社会」の実現に向けて活動を展開している。