利他の心を育める人間こそが、本物の経営者である

アチーブメント株式会社 代表取締役会長 兼 社長 青木仁志

社員が高い志を持ち続けられる環境を作り、一人ひとりの能力と主体性を最大限に引き出せる組織こそが、長期的な成長を手にする。その成長の原点を作っているのはトップである経営者の考え方と行動に他なりません。では、いかにして社員の志を育むのか。この疑問には、これまで5000名以上の経営者教育に携わってきた青木がお答えします。

組織づくりとは人づくりである

「志」とはなにか。
それは、自分の成果や地位・名誉のためだけではなく、縁ある人に貢献しようという生き方そのものだと私は思います。

近頃は家庭内暴力や職場でのパワハラなど、多くの社会問題が起こっています。
書店に行けば自己中心的な考え方に拍車をかけるような本が並んでいます。
これらはすべて「自分さえ良ければいい」という価値観が引き起こしている現象です。

この価値観が更に社会に蔓延し続けていくとどうなってしまうでしょうか。
お互いに協力しあう社会的な存在である人間が、他人に対する興味を無くし、個の経済的合理性だけを追求し続けてしまった先にあるのは、様々な補償制度や経済的な仕組みそのものの破綻、すなわち国の崩壊です。

この原因は、家庭や学校での教育にあると私は思います。
日本の教育はテストで良い点を取れる人が上に上がれる仕組みですが、それで評価されるのは勉強ができる人です。
しかし勉強ができても豊かにはなれません。

なぜなら豊かさとは「他者に価値を提供できる人」に訪れるものだからです。
本来は、「人の役に立てる人」が上に上がっていく仕組みであるべきだと思います。

自分はどう縁ある人の役に立っていけるのか、社会の役に立っていけるのかという健全な考え方で勉強をし、仕事を選び、生きていくことができたとしたら、思いやりや感謝といった考え方を持つ立派な人間に育っていくはずです。
この最も大切とも言える人格教育は、学校教育や家庭教育で果たされることが望ましいですが、そうではないのが現状です。

経営者自身が、自社の社員に対して気概を持って人格教育を行っていく覚悟が必要なのです。
経営者とは、そうした利他の心を育む「人づくり」に注力できる教育者であるべきなのです。

「いかに楽できるか?儲かるか?」という自己中心的な考え方では、利他の心も志も育まれません。
「この仕事はどう人様の役に立つのか?」「いかにもっと世の中に貢献できる人間になれるのか?」を常に自問自答し、能力を磨き続けることこそが、志を育てる条件です。

利己的な価値観がはびこっている現代社会だからこそ、そのような社員を一人でも多く増やしていくことが経営者に求められる「人づくり」なのです。

誰よりも経営者が事業目的に生きること

これを実現していく第一ステップは、経営者自身が明確な事業目的を持つことです。
そして、その事業目的の実現に向けて行動する姿を示し続けることです。

具体的に言えば、どこにも負けない高品質な商品・サービスを開発し、お客様の満足を徹底的に追求することです。
その結果としてお客様に期待以上の価値を提供でき、満足していただけます。

適正利潤とは、満足の対価なのです。
先に行うべきは価値の提供、すなわち貢献です。
この順番を経営者自身が絶対に間違えてはいけません。

目の前の人に少しでも喜んでほしいという純粋な思いを、事業を通して形にする。
ここに情熱を注いで取り組む利他の姿勢を経営者が示し続けることこそが、社員の志を育む第一条件です。

理想の人材像から逆算した育成の仕組みを整えること

次に、育成のゴールを明確にすることです。
利他の心や志といった「徳」と高い業務遂行能力である「才」を併せ持つ人材とはどんな姿なのか。
それを明確に定義することが求められます。
そして、いかにそのような人材を育てるかを真剣に考え、実行していきます。

理想の人材像から逆算した人事評価制度を作ることも良いかもしれません。
例えば、アチーブメントでは、スタッフ・リーダー・マネジャーといった8つのグレード(職級)を設けています。
基礎・応用・率先垂範・育成・部門統括・経営と、それぞれテーマが異なり、昇進昇格時の条件も明確に提示しています。

この制度設計の肝は、「より会社やお客様の役に立てた人間が昇進昇格できる仕組みである」ということです。
売上を上げていても、ルールを守らなかったり、仲間に迷惑をかけたりする働き方では、次のステージには上がれません。
つまり、利他という価値観を行動で示し、成果を出せる人間がしっかり評価される仕組みであるということです。

しかし、どれだけ良い仕組みを作っても、それだけで人が育つわけではありません。
重要なのは、仕組みの背景や目的を社員が理解し、腑に落ちていることです。
そのために欠かせないことが、その目的を経営者自身が発信することなのです。

さらに言えば、どんな組織にしていきたいのか、社員にどう成長してほしいのか、志を持って働くことでどれだけ豊かな人生を歩めるのかを啓蒙し続け、社員から共感を集められているということです。

私は、創業以来、毎週必ず1時間は全社員にメッセージする時間を取ってきました。事業価値や働く意義・目的を信念を持って伝え続けるのです。価値観への共感と、仕組みの2つがマッチして、社員教育は形になっていくのです。

利他への思考変容こそが志教育の本質である

私たち人間は、例外なく利己的な生き物です。
「自分さえ良ければいい」「人を打ち負かしてでも一番をとりたい」という思いは、誰しもが少なからず持っているものです。
この利己的な思いを否定する必要はありません。

ただし、そういった願いを叶えていくには、人の力を借りられなければ難しいと知ることです。
一人でできることには限界があります。

だからこそ、人の力を借りられる人格を身につける必要があり、そのための非常にわかりやすい指針が「何事でも人々からしてほしいと望む通りのことを他の人々にもそのようにせよ」という黄金律に生きることなのです。

惜しみなく周りに与えられる豊かな考え方を持った人間になること。
ここを目指す人材を社内に一人でも多く育てていくことが、経営者に求められているのです。

世間一般的には、これを利他主義と呼びます。
「志」とは、まさに利他を追求していく中で、育まれるものなのです。

「成功は自分から始まり、他の人々への具体的な貢献で完成する」

この言葉を是非経営者自身が生きてください。
そして、その生き様を通して、社員を豊かな人生に導いてください。

 

青木仁志(あおき さとし)
北海道函館市生まれ。若くしてプロセールスの世界で腕を磨き、 トップセールス、トップマネジャーとして数々の賞を受賞。その後に能力開発トレーニング会社を経て、1987年、32歳で選択理論心理学を基礎理論としたアチーブメント株式会社を設立。会社設立以来、39万5,027名の人財育成と、5,000名を超える中小企業経営者教育に従事している。