これまで多くの中小企業では、一人の経営者の経験や判断力に支えられた経営スタイルが、会社の成長を牽引してきました。しかし、社会の変化のスピードが加速し、予測が難しい時代を迎えた今、一人の経営者に経営のすべてが集中している状態から、組織のあり方が見直され始めています。そこで注目されているのが、社員の主体性を育む「自走する組織」です。なぜ今「自走する組織」が注目されているのか、その時代背景と、「自走する組織」へ変化することで得られる効果について解説します。
今、企業を取り巻く環境は、想像を超えるスピードで変化しています。AIや生成系技術の進化、リモートワークの普及など、働く人の価値観の多様化、そして顧客ニーズの複雑化。どれをとっても、従来の意思決定プロセスでは対応しきれない事態が日常化しています。
特に2020年代に入り、新型コロナウイルス感染症(CОVID-19)の世界的流行により、人々の生活様式は一変しました。リモートワークとオンラインサービスが日常となり、デジタル技術は社会の基盤へと急速に浸透し、企業には柔軟な対応と変革が求められるようになりました。
・AI・IOT・ビッグデータなどのテクノロジーの進化
(2) 顧客ニーズの複雑化
・商品・サービスのカスタマイズや、パーソナライズが当たり前に
(3) 働く人の価値観の多様化
・リモートワークをはじめ多彩な働き方へ
・Z世代の台頭など、世代差も顕著に
■トップ一人がすべてを把握し、適切に判断するには情報量もスピードも限界を迎えつつある
■従来の「上司のそばで指示を受ける」スタイルは通用しにくくなってきている
■業務のあり方が変化し現場で即時に情報を分析し、判断できる環境が整いつつある
リーダー一人の判断や指示ですべてを動かすには限界があり、組織規模が大きくなると効果的なマネジメントが難しくなります。このように組織運営において、一人の判断に頼る体制から、より分散的で自律的な仕組みづくりが求められているのです。
こうした環境下で求められているのが、「自走する組織」への転換です。ただし、自走という言葉に対しては、「完全な自由裁量」「放任型マネジメント」といった誤解も少なくありません。
ここでいう「自走する組織」とは、社員一人ひとりが企業の目的やビジョンを理解し、自ら考え行動することで、組織全体が自律的に成果を生み出す組織です。指示待ちや過剰な承認プロセスに頼らず、現場がスピーディに意思決定し、環境変化に柔軟に対応できることが特徴です。
個人主義でも管理の放棄でもありません。そして、こうした「自走する組織」へ変化することで、次のような効果を期待することができます。
意思決定のスピードが上がる現場の従業員が主体的に判断し、迅速に行動できるため、意思決定や業務遂行のスピードが向上。市場や顧客の変化に素早く対応できるようになります。
メンバーのモチベーションが向上する従業員は、自らの能力を発揮し、主体的に業務に取り組むことで、やりがいを感じ、モチベーションが高まります。自律性や責任感が高まり、エンゲージメントが向上します。
イノベーションが生まれやすくなる従業員が自由に意見交換し、新しいアイディアを生み出すことで、組織全体の創造性が高まります。多様な視点からの意見が活発になり、革新的な製品やサービスの開発につながります。
自走する組織は、単に業務効率を上げるだけでなく、企業の成長や変革を大きく加速させる力をもっています。ではどのようにして自走する組織に変革すればよいのでしょうか。ここからは、自走する組織へ変革し、大きな成果を上げている2社の事例をご紹介します。