しつらえ編

「しつらえ」という言葉をご存知でしょうか?

耳にしたことがあっても、日常生活では親しみの少ない言葉の一つかと思います。

 

「しつらえ」とは、おもてなしの効果が最大限発揮されるよう、万事を期して〝場〟や〝空間〟などの環境を整備することです。

例えば茶道では、茶室にある掛け軸や生けられたお花、〝無音〟という名の音までもがしつらえの一つで、お茶の愉しみを最大限引き立てるのです。

懐石料理といわれる日本料理がありますが、本来はお茶を楽しむ前に懐を温めながら季節を感じるためのもの。

自然の音を愉しむのは、お茶をとともに発展してきた日本料理も同様です。

携帯電話から響く電子音は、そのお店がしつらえた空間に影響を与えてしまうかもしれません。

 

一流と呼ばれる方ほど、「しつらえ」に気を配られていると感じます。

もちろん、料理店はお食事を愉しむ場ですので、変に神経質になる必要は全くありません。

しかし、千利休が唱えた「七則」にも「相客に心せよ」とあるように、そのお店の「しつらえ」に気を配り、お食事をともにする方に最大限お店の「しつらえ」を愉しんでもらうことが、お相手から見ても、私たち料理人から見ても「一流」と感じずにはいられない心配りなのではないかと思います。

 

たとえば、料理人に店内のつくりや使われている食材のことをあえて尋ねたり、その場で感じられたお店の雰囲気などを伝えたりするのも良いでしょう。

そのとき語られる「しつらえ」が、お相手の愉しみにつながるかもしれないからです。

 

とはいえ、お客様に「しつらえ」を感じていただけるようにするのはお店側の努力。

皆さまにより良い時間をお過ごしいただけるよう、さらに磨きをかける所存でございます。