理念が社員の会話の中に ~主体性を育む百年企業の仕組み~

株式会社永田屋 代表取締役  田中大輔   

理念浸透の仕組みを整えることは決して簡単ではありません。代表が理念を伝え続けることはもちろんですが、理念を現場の行動で咀嚼して理解のスピードを高めるためにはどうすればよいのか?今回は、100年葬儀社の永田屋が実践する「暗示」の仕組みを公開!これまでの実績を支えてきたバックグラウンドをお伝えいたします。

組織の一体感を生み出した「暗示」の仕組み

―どんな取り組みをされてこられたのですか?

「もうひとりの家族のような温かみのあるおもてなし」という理想を葬儀社として掲げていましたが、その価値観が思うように浸透しない問題がありました。

そこで判断基準の統一と主体的な組織を目指して、「アファメーションブック」と名付けた冊子を制作しました。
企業理念やビジョン、行動指針など、組織の方向性を明文化し、その名の通り暗示をかけるかのごとく、毎日の朝礼で唱和をしています。
最後には自分のオリジナルのアファメーションを記入する欄を設け、自分だけの活用が出来るようにしました。

また、明文化した行動指針の浸透を加速させるために、「サンクスカード」という取り組みを強化しました。
一般的にサンクスカードといえば、社員同士で交換する感謝状のイメージが強いですが、私たちが取り組んだのは、感謝を伝えるだけではありません。
相手の行動がアファメーションブックに記載されたどの行動指針に即したかまでを明示する内容です。

その狙いは、「理念から一貫した行動とは何かを常に考えること」と「承認文化によって理念に生きる後押しをすること」の二つです。

―その取り組みによってどんな成果を手にされたのでしょうか?  

社員の理念に対する理解度が増し、主体的に業務に取り組むようになった結果、施行件数前年対比116%の成長を作り出せました。

実は我が社の葬祭部社員は売上目標を持ちません。
数字にばかり焦点が当たってしまうと、顧客視点で魂のこもった仕事ができなくなると思ったからです。
それでもこの成果が出たのは理念浸透が進んだ結果だと自負しています。

また、サンクスカードの取り組みはコミュニケーションの活性化に役に立ちました。
1年前は一ヶ月に100枚だったところから、今では1200枚を越える数のやり取りがされるようになったのです。

行動指針に則った内容で贈られるサンクスカード
行動指針に則った内容で贈られるサンクスカード

自身の体験が後押しした使命への確信

―どうして「暗示」の取り組みを始められたのでしょうか?

私たち葬儀社は人の命と向き合い感謝の気持ちを伝える仕事です。
単なる作業ではなく思いを込めて働く必要があります。

しかし、実際の現場では人によって業務の教え方やクオリティにばらつきがあり、仕事に対する慣れが蔓延することを懸念していました。
そこで、「慣れの防止」のために、組織の理想への理解を全社で深めようと、取り組み始めたのです。

お陰さまで永田屋は、2013年に創業100周年を迎え、同時期に4代目の代表に私が就任いたしました。

しかし、実はこの翌年に父親をガンで亡くしています。
毎日仕事に追われ、父の異変に気付けず、発覚したときには既に末期の状態でした。
命と向き合い、命の有限さを噛みしめる職業でありながら、早期発見できなかったのは本当に悔しかったのですが、亡くなるまでの間、毎日面会に行き出来る限りの親孝行をしました。

そして、父をおくる過程で、改めて確信が深まったのは、
人が亡くなる時に持っていけるのは地位や名誉ではなく、「愛情にあふれたポジティブな思い出」だけだということです。
だからこそ、永田屋が目指すのは身近な大切な人たちとの繋がりを大切にし、良好な人間関係が築かれる社会なのです。

―ただ、仕組みだけで、社員が理念を受け入れるのは難しいかと思いましたが、いかがでしょうか?

確かに仕組みだけでは押し付けのようになってしまいがちです。
そこで、私自身の社員に対する接し方や経営者としての在り方を根本的に見直しました。

それまで「こうして欲しい」と社員に熱心に伝えていましたが、社員との間に距離が生まれ、理解してくれないという苦悩を抱えていました。

『頂点への道』講座の受講をきっかけに気付いたのは「理念を理解し、理念に即した行動をとってほしい」という思いを、一方的に社員に押しつけていたということです。

よく考えたら、社員が何を望み、何に興味があるのかをあまり知らなかったのです。
会社を良くしたい気持ちのあまり、一番大切な社員の幸せを何処かに置き忘れていました。
やりがいを持って働ける環境を作ることこそ、企業理念に即した姿であると改めて腑に落ちたのです。

早速実践したのは幹部との時間を増やすことでした。
面談を重ね、望みを聞き、私が求めることを伝え、どうしたら実現できるのかを一緒に考え続けました。
かなり時間を要しましたが、少しずつ正直な気持ちをお互いに話せるようになり、信頼関係を築いていけるようになりました。

そして、アチーブメント社の組織向け研修を参考に、「理念浸透ミーティング」と呼ばれる社内研修を始めました。
それは、我が社の事業価値や感動した体験談を分かち合う場であり、実践している人の在り方を通して理念を深く理解する場です。
全社で集まるとその分業績に影響が出ますが、理念への共感こそが顧客満足と更なる繁栄を生み出す原点であると考え、優先して時間を取りました。

そうした在り方を見直す取り組みと、仕組み上の取り組みが相乗効果を発揮し、お陰さまで一体感のある組織が出来上がってきていると感じています。

毎朝 朝礼で全従業員で行う理念の「暗示」
毎朝 朝礼で全従業員で行う理念の「暗示」

 

―理想が現実になってきましたね。

お陰さまで、今ではパート社員まで「アファメーションブック」を携帯し、毎朝「暗示」を掛けています。
改善を重ね、ようやく全社的に動き出した実感があります。

「暗示」とは、ただ唱えるだけでは意味はありません。
「企業理念に生きることで、自分もお客様も仲間も物心ともに豊かになる」という体験とともに、納得感が湧いてくるものです。

マイナスの悲しみをゼロにするだけでなく、我々の関わりを通してご遺族が前向きになれるサービスを、葬儀社として今後も提供し続けていきます。

全従業員がアファメーションブックを携帯する落とし込まれた「私=組織」の価値観
全従業員がアファメーションブックを携帯する落とし込まれた「私=組織」の価値観

 

取り組み
・「アファメーションブック」の唱和による「暗示」
・理念浸透研修での価値観のすり合わせ
・理念と連動したサンクスカードの導入毎朝の朝礼で全従業員で行う理念の「暗示」

⬇︎

成果
.葬儀施行件数で昨年対比116%成長
.サンクスカードのやりとりが月に100枚から1,200枚に増え、社内コミュニケーションが活性化

 

田中 大輔( たなか だいすけ)
1975年生まれ。2013年で創業100周年を迎えた、相模原を中心に店舗展開する葬儀店「株式会社永田屋」の4代目経営者。創業者から受け継がれてきた企業理念を基軸に、クライアントのニーズに寄り添った世界にたった一つのお葬式を展開する。その圧倒的な満足度が口コミとなり、地元ではもちろん、メディアからも注目を集めている。近年では葬儀業界では異例の新卒採用を始め、更なる組織の拡大に着手している。