全国で最も深刻な人口減少と少子高齢化に直面する秋田県。自衛官、司法書士、県議会議員という異色のキャリアを経て、2025年に秋田県知事に初当選を果たした鈴木健太氏。就任直後から前例踏襲の壁に挑み、県庁職員一人ひとりの心に火をつけていくリーダーシップの真髄とはなにか。アチーブメントグループCEO 青木仁志と語り合いました。青木 全国の自治体で注目されている鈴木知事。本日はゲストとしてお迎えでき、大変嬉しく思います。改めて2025年の知事へのご就任、心からお祝い申し上げます。
鈴木 青木社長、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
青木 今回は「主体性を引き出す」というテーマについてお話ししたいと思います。鈴木知事は自衛官から司法書士、そして政治の世界へという異色のキャリアを歩んでこられました。まずはその経歴からお聞かせいただけますか。
鈴木 大学卒業後に入隊した自衛隊では、幹部自衛官として充実した日々を送っていましたが、現場を経験するなかで自身の生き方を考えさせられました。そして27歳で結婚して子どもができたことを機に退職し、妻の実家がある秋田へやってきたのです。
青木 自衛官から、縁もゆかりもない環境へ。なぜ思い切って飛び込めたのでしょうか。
鈴木 当時は無職で食べていくスキルもありませんでしたが、とにかく「家族を守ろう」と必死でした。これからの将来を思い描いたときに、もっと家族のそばに寄り添い、時間を大切にできる生き方をしたいと考えたのです。そこで、家族を養うために1年間必死に勉強して司法書士の資格を取り、秋田で開業し、生活の基盤をつくってきました。
青木 愛する家族を守るために退路を断ったのですね。その凄まじい頑張りの背景には、いったい何があったのでしょうか。
鈴木 私の根底にあるのは「母親」の存在だと思います。決して何でもできる子どもではなかったのですが、母親はとにかく私を褒めて育ててくれました。たくさんの愛情を受けて育つなかで、「思いやる大切さ」や「楽観的に考えてまずは挑戦すること」の大切さを、母からたくさん教わったと思います。そこから、大切な人の笑顔のために頑張るという、価値観が育まれてきたのです。
青木 素晴らしいですね。身近な人から受けた深い愛情が、他者への貢献意欲へと繋がっていったのですね。

人気を集め2025年に知事選初当選を果たす
鈴木 まさにおっしゃる通りです。そして、そのことに本当の意味で気づき、確信を持てたのは、司法書士として生活が安定してきたころに受講したアチーブメントの講座のおかげでした。「外から来た私だからこそわかる秋田の魅力があり、普段接する秋田の皆さんの役にもっと立ちたい」という思いがあったからこそ、人生の目的を深く考え、「人口減少が最も進んでいるこの秋田で政治をやるのが、私のミッションだ」と気づくことができました。
青木 目的が大事ですね。そしてその目的の土台には、ご家族や身近な大切な人への思いがある。ご自身のなかから湧き上がる「インサイドアウト」の輪が広がるなかで、県政という大きなテーマを考えられるようになったのですね。
鈴木 はい、自分のためだけでなく、誰かのためを思うと、大きな力が湧いてくるのを感じているばかりです。
青木 現在、最重要課題である人口減少対策をはじめ、多くの政策を形にされていますが、そのためには県庁の組織力、職員の力が不可欠です。しかし、公務員の世界は上意下達・前例踏襲の文化が強い傾向もあるなかで、職員が自ら動き出すために、知事はどのようなメッセージを発信されているのでしょうか。
鈴木 私は県議会議員として10年間、外から行政組織と向き合ってきました。職員の皆さんは優秀で真面目なのですが、長年の慣習から「県庁の仕事はここまでだ」という固定観念ができあがっていたのです。秋田県には豊かな資源や強みがあるにもかかわらず、成果を追求することに消極的で、非常にもったいないと感じていました。
青木 現状に安住しようとする人間であれば誰しもが持つ考えですね。その壁をどう乗り越えようとされているのですか。
鈴木 秋田のような地方では、県庁が「お上」として存在し、非常に影響力が大きいです。だからこそ、中核を担う県庁を「チャレンジングな集団」に変える必要があります。これまで組織のなかには意見があっても発信しない空気がありました。ですから、まずは「思ったことはちゃんと言いましょう」と伝え続けています。
青木 大きな一歩ですね。しかし「自由に言っていい」と頭で理解しても、なかなか行動に移せないのが人間の心理でもあります。
鈴木 おっしゃる通りです。その最大の理由は、受け手側が冷たかったり高圧的だったりするからです。人と違う考えを持っているのは当たり前。まずは受け入れ、率直にものを言い合える「寛容さ」の文化を醸成しようと訴えています。まさに講座で学んだ選択理論心理学の考え方が、非常に活きています。相手も過去も否定することなく、支援的な姿勢を示し、3千人を超える職員との信頼関係を構築することを特に意識しました。
青木 トップ自らが職員を信頼し、違いを受け入れ、ともに歩むことへの挑戦ですね。鈴木知事にとってはそれはまさに「寛容」という言葉に集約されますね。

~職員提案による庁内DX推進と県民サービス向上へ~
鈴木 はい。実は以前、「地域の希望」を都道府県でランキング化した調査で秋田県が最下位になったことがありました。その要因の一つが「地域の寛容性の低さ」だったのです。驚くべきことに、「人口減少率」と「寛容度の低さ」が見事に相関していました。思ったことを言っただけで周囲が引いてしまうような雰囲気を変えるため、私自身が腹を立てずに相手を受け入れる姿勢を示し、地道に雰囲気づくりを始めています。
青木 相手を力でコントロールしようとするのではなく、リーダー自らが「寛容さ」を体現し、泥臭く対話を続ける。トップがエゴを手放し、自己開示するその生き様が信頼を生むからこそ、職員一人ひとりの主体性が引き出される環境が整うのですね。
鈴木 加えて、具体的な目標設定の面においても、その勾配や期間の区切りを明文化し、組織全体に仕組みとして浸透させていきながら、高い目標に向かっていけるマインドの醸成に努めています。具体的なマーケティング施策においても、ターゲットの願望に焦点を当てた内発的動機づけを重要視しており、少しずつ組織の文化が変わってきている実感があります。
青木 当たり前の基準が変わることで、組織は劇的に変わっていきます。素晴らしいアプローチです。
青木 若者が選びたいと思う未来の秋田を実現するために、「人づくり」は欠かせない要素です。「良かれと思って」の押し付けが、若者の主体性を奪ってしまうことも少なくありません。知事は今、秋田の若者たちの教育において、どのような課題を感じておられるのでしょうか。
鈴木 秋田県は、小中学校の学力がずっと全国トップクラスであるという素晴らしい成功体験があります。しかし、4人の子どもを育ててきた親の立場から言うと、その成功体験が逆にマイナスに働いている面もあるのではないかと感じています。
青木 詳しく教えてもらえますか。
鈴木 先生や親の言うことをよく聞く「良い子」は多いのですが、高校生くらいになるとパッションダウンすることが多いのです。決められた通りにやれば点数は上がりますが、「これをやりたい!」という熱意を育てきれていないように思います。
青木 トップダウンで言われたことをこなすだけでは、本当の意味での主体性は育たないということですね。これがどのような問題を引き起こしているのでしょうか。

「2040年の秋田のイメージ」
鈴木 象徴的なのが数年前の高校入試制度の変更です。スポーツの優れた実績による入学希望でも、5教科の試験を課し、時期も後ろにずらして一般選抜の日程と統一されました。結果として何が起きたかというと、スポーツを本気で頑張りたい子たちが、どんどん県外の私立高校に流出してしまったのです。
青木 なるほど。大人が良かれと思ってつくった枠組みが、若者の挑戦する機会を奪い、人口流出を加速させてしまったのですね。
鈴木 人間は自分で「やろう」と思わないと成果も熱意も出ません。人に言われてやるのではなく、自分で見つけて決める力を育てたいのです。教育制度については、知事の権力で無理やり変えることはできません。だからこそ、関係者にも寛容な姿勢を意識しつつ、少しずつでも良い方向へとともに変わっていけるように、粘り強くアプローチしています。
青木 相手を力でねじ伏せるのではなく、目的を共有し、自ら気づくのを待つ。非常に根気のいる関わりですが、それこそが本質的な人の動かし方ですね。秋田の若者たちが内なる情熱を解放できる環境を整える、大変意義深い挑戦だと思います。
青木 現在、全国の地方都市が人口減少という課題に直面しています。そのなかで、秋田県を「選ばれる地域」にしていくために、知事が見据える未来のビジョンをお聞かせください。
鈴木 熊被害の増加などで地域のイメージが一時的にネガティブになっていますが、世界の気候変動や食料・エネルギー安全保障など、これまでの当たり前が大きく変わる時代が来ています。秋田県は、クリーンエネルギーを先進的に進めており、食料自給率も高く、豊かな住環境があります。これらはこれからの時代の大きな強みです。
青木 これまでは経済効率最優先の社会のなかで、どうしても都会のほうが力が強い構図でしたが、まさに時代の転換点ですね。

鈴木 おっしゃる通りです。コロナ禍を経て、「一極集中が本当に正しいのか」「人の幸せとは何か」という価値観の変容が始まっています。「秋田は遅れている」という考えがまだ一部の県民にはありますが、これからの時代は「絶対にこちらの方が豊かな生き方ができる」と自信を持って言える地域になると確信しています。
青木 トップ自らが、その地域の価値を誰よりも信じ抜くことが立脚点になりますね。
鈴木 はい。関西から移住し、無職から必死に生きてきた私だからこそ、その真の価値がわかります。このマインドチェンジを、知事という立場で力強く進めていきたいと考えています。
青木 鈴木知事の覚悟から、多くの本質的な学びをいただきました。私どもも、民間企業として地域・国家のお役に立てるよう、尽力し続けてまいります。本日は貴重なお話をありがとうございました。
鈴木 こちらこそ、ありがとうございました。