言いづらいことを伝える時のフィードバック4つのポイント

アチーブメント株式会社 相談役/首席トレーナー 佐藤英郎

 

決して威圧的な態度を取っているわけではないのに、こうした状況が生じてしまうことが多くの管理職の悩みですね。

フィードバックとは、現在地を知らせ、目標達成の支援をすることです。これは、メンバーが成長していくために必要不可欠です。
なぜなら、求めているゴールに対して、いま自分はどこにいるか?それが明確にわかるからこそ、理想と現実のギャップを把握し、正しい行動を選択ができるようになるのです。

言うべきことを、しっかりと本人に伝えきる。これがマネジメントの第一歩ではないでしょうか。

何度注意しても、仕事を期日に間に合わせられないメンバー

Aくんは、入社3年目。入社してからずっと総務を担当していますが、何度も経験がある業務であっても、毎回納期に遅れが出ており、改善されません。「時間がない」が口癖で、進捗が芳しくなくても上司に自分から助けを求めることはしません。今回も、Aくんの業務が滞ったことで、新入社員への貸与品が入社日夕方に届くことになってしまいました。

上司 貸与品は本来、何時に用意できているべきだったの?

部下 本来は今朝の10時です。

上司 10時ということは、昨日中に届く必要があったということかな?

部下 そうです。

上司 何日に発注すれば、間に合ったの?

部下 3日前です。でも、業務が多くて…。

上司 実際は何日前に発注したの?

部下 昨日しました。

上司 そうか。ちなみに、前回の備品発注も遅れたね、どう思っている?

部下 正直、一人でこの業務量ではかなり難しいと思っています。

上司 ちなみに、このことによって、どういう影響があると思う?

部下 新入社員と、人事のスケジュールに影響があったと思います。

上司 会社にはどんな影響があった?

部下 新入社員の会社への期待値を下げたかもしれません。

上司 そうだね。新入社員は大丈夫だろうかと不安になっただろうし、会社は新入社員からの信頼を失ったね。あなた自身は何を失っていると思う?

部下 信頼でしょうか。でも、仕事が立て込んでいて、どうしても難しいです。人を増やしてほしいです。

上司 本当に必要であればそう動くけれど、ひとつ確認してもいいかな。A君は期日を守れないということについて、本当に良くないことだと思っている?

部下 良くないとは思っています。ですが、環境的に仕方がない側面もあるかなと…。

上司 そうか。A君、はっきり言っていいかな?

本当にこれはよくない事態だと心から思っていたら、あなたほどの人であれば 3回も繰り返さないと思います。私はとても残念に思います。

部下 はい…。

上司 これが繰り返されるようなら、A君へさらに大きな仕事を任せることは難しくなる。A君はリーダーを目指しているし、私もA君にはぜひリーダーになってほしいと思っている。でも、期日を守るという基本的なことを大切にできない人に、リーダーを任せることはできない。それくらい重要なことなんだ。ここまでのことについて、どう思っている?

部下 このままではいけないと思います。

上司 本当に期日を守らなければならないと思っていたら、私に相談することもできただろうし、依頼を受けるときにやれませんということもできたかもしれない。改善案については、これから話し合おう。

部下 よろしくお願いします。

Point 相手の成長をイメージする

ミスをどう改善するか?ということに注目しがちですが、フィードバックの目的は相手の成長を支援することです。「どんな風に成長してほしいのか?」「何のために伝えるのか?」という、フィードバックの目的にまず立ち返り、どんな人間に育ってほしいのかということを伝え続けてあげてください。

Point 事実を元に伝える

「どんな状況だったのか?」「どんな行動や、態度や発言が見られたのか?」といったことについて、認識をすり合わせます。本来3日前までにすべきだったことを昨日行ったことで、何が起きたのか、ということを確認していますね。また、「何度も」といったあいまいな表現ではなく、「3回」という具体的な表現を使っています。

Point メッセージで伝える

メッセージというのは、②でお伝えした「事実」ではなく、「解釈」です。しかし、問題の重要性や、影響についての認識のズレの大きさを伝えるのに効果的です。決して感情的になってはいけませんが、i-メッセージは自己評価のよい材料となります。感じたことをしっかりと伝えてあげてください。

Point 言葉以外でも空気づくりをする

ネガティブフィードバックは基本、人前では行いません。本人の自尊心を傷つけますし、集中がなくなります。例えば、短い時間でも、廊下で伝えてあげてください。そして、今回のケースですとわかりにくいですが、表情や声のトーンも重要です。言いづらいことを伝えるからこそ、しっかりと真剣な空気をつくってください。「申し訳ない」という表情や、軽い声の調子では、言っていることを受け取られづらくなります。

エイローが告ぐ!外してはいけないフィードバックの大前提

ここまでフィードバックのポイントを解説してきましたが、これはあくまでも一例にすぎません。この通り覚えて伝えれば、部下がみるみる育つ!なんて魔法の言葉はありません。だからこそ、言うべきことを伝えるためには、伝え方ももちろんですが、それ以上に上司がどんな前提を持っているかが重要です。

「何を目指すか」に対する合意はあるか

青木も伝えていますが、部下育成においては、そもそも相手が何を目指しているのか、将来的にどんなキャリアを望んでいるのかを、上司であるあなたはしっかりと把握している必要があります。その上で、会社・組織として期待していることと、部下が目指すものを重ね合わせ、「会社組織と、部下とどちらもが勝つために、何を目指すのか」について合意をつくります。ゴールに対して合意が無ければ、部下は上司の言うことに対して、強制感や嫌感を感じてしまうでしょう。

相手の可能性を引き出す決意はあるか

一度でメンバーの行動が改善されるということはありません。しかし、一度、二度とフィードバックを重ねると、「やる気がないのでは」と、つい相手のせいにする気持ちが出てきてしまいます。何度伝えても伝わらないときこそ、どれだけ相手の可能性を信じているかが試されます。部下は必ず成長する人だと確信を持ち、部下の成長の支援をしきるという決意が部下育成には欠かせません。日本電産の永守重信さんも「タコができるまで言い続けて、そのタコにタコができるまで伝え続ける」とおっしゃっていました。一度で諦めることなく関わり続ける、その姿勢から、部下への愛情や真剣さが伝わるのではないでしょうか。

相手から信頼される上司であるか

ここまでお伝えしたすべてのことを実践してみても、うまくいくかどうかはあなた次第です。なぜなら、フィードバックにおいて最も重要なことは、あなたが相手からどんな存在として見られているか、だからです。

まったく同じことを同じように伝えたとしても、「あなたにだけは言われたくない」と思われる人と、「あなたにだったら言われてもいい」と思われる人がいます。その違いをつくるのは、あなたの毎日の姿勢です。

フィードバックする内容について実践していることはもちろん、部下に対してどれほど誠実に正直に接しているでしょうか。あるいは、部下から尊敬されるに足る実績を有しているでしょうか。部下があなたの言葉を聞いてくれていないのではありません。あなたが、部下の胸に響く言葉を伝えられる存在ではないということなのです。あなたは部下にとって「あなただったら」と言われる存在になっているでしょうか。あなたが部下を見ているように、部下もあなたを見ています。ぜひ、自己研鑽し続けてほしいと思います。