Step.3 真の指導者として生きる 「人間尊重の在り方」と「心の理解」が名指導者への道を歩む必須条件である

指導の目的は勝ち負けではなく『人間尊重』

ここまで3名の指導者に本質的な指導論をお話いただきました。ここからはその指導の原点となる「考え方」についてお話をします。
まず指導の目的とは何かと問われるとなんと答えますか。スポーツでは勝利やチーム・個人の成長、ビジネスでいえば予算の達成や会社の業績向上でしょうか。それらは「目標」であって、目的ではありません。私は、指導の目的とは、人間尊重の追求にあると考えます。人間尊重とは、一言で言えば「人として尊重し、大切に扱う」ということです。
これを会社経営に置き換えると、働く社員を物心両面で豊かにするということ。36年間、この目的を何よりも大切に経営をしてきましたが、スポーツや学校においても同じことが言えるのではないでしょうか。自分が関わることで、選手や生徒が経済的にも・精神的にも豊かになる力を身につけられるよう導くことが指導者の役割であり、指導の目的なのではないでしょうか。

指導者に求められるのは人の心の働きを理解すること

世の中には、結果を手に入れるためには人間関係を犠牲にするしかないと考えている指導者が多くいます。しかし、そうではありません。強制や恐れを使う指導は、短期的な結果は得られるかもしれませんが、人間関係が壊れ、長期的にみると求めていた結果は手に入りません。
例えば、私は子どもたちに勉強しろと言ったことはありません。勉強をしろという言葉で子どもたちが勉強するわけではないと知っているからです。もし、ガミガミと叱り続けていたら「お父さん嫌い」と言われ口を利いてくれなくなっていたでしょう。正しいことを強く伝えるよりも、勉強が楽しいと思ってもらえる関わりや勉強法を提案する方がずっと効果的なのです。正しさよりも楽しさが人をつき動かすのです。
指導者は、人の心の仕組み、すなわち人は内側からしか動機づけされないことを理解する必要があります。

黄金律の実践が真の指導者への道

▲社員が主体性を発揮できる文化で
「働きがいのある会社」ランキング2位獲得

しかし、内発的動機づけによる指導には時間がかかります。相手を尊重し、主体性を育むことは一朝一夕では実現しません。かくいう私も最初から指導が上手かったわけではありません。
思うように動かないメンバーを前に自分の正しさが出て葛藤したり、批判的な気持ちを抱くこともありました。しかし、私は何を求めているのか、そして目の前の社員は本当は何を求めているのかと自問自答を繰り返しました。社員との良好な人間関係を維持し、社員が物心両面の幸福を手に入れる支援をしたい、その一点を見続け、「何事でも、他の人々からしてほしいと望む通りのことを、他の人々にもそのようにせよ」という黄金律を実践できるようになりました。
自分が経験してきた〝当たり前になった〟指導を脱却するには時間がかかります。しかし、ここまでお話をしてくださった3名の指導者のように、外的コントロールを使うことなく、主体性を引き出す指導を実践し、結果を手にした方々がいらっしゃいます。ぜひ信じて学び続けてください。