「あなたが言うことなら 100%YESですよ」~信じ、委ねる姿勢が、部下の力を引き出す~

子育て 社員教育 経営者の自己研鑽
アチーブメント株式会社 相談役/主席トレーナー  佐藤 英郎

信じ、委ねる姿勢が、部下の力を引き出す

右腕、左腕となる幹部を育て、組織の成長を創り出すことは、
経営者にとって、最も重要な仕事の一つです。
仕事でコミュニケーションを取るなかで、いかにして目標達成へのモチベーションを引き出しながら、理念・志を継承していくとよいのでしょうか。
幹部育成研修の講師として人気を博するアチーブメント主席トレーナーの佐藤英郎がお答えします。

「全部任せる」そう言い切れるほど社員を知っているか

私は長らく研修講師として、21万人以上の方の研修を担当してきましたが、言うまでもなく私一人の力で成し遂げられたことではありません。設計をし、集客をし、会場やツールの準備をし、当日の運営をする優秀な社員たちがいたからこそ、この仕事ができています。そんなかけがえのない社員と仕事をするなかで、意識していることは、いかにして彼らの持つ力を最大限に引き出すことができるかということです。そのために、最も重要なことは心から信頼をして、積極的に委任をすることだと思います。社員たち一人ひとりには、その一人ひとりにしか無い強みや長所があります。講師という点では確かに私は長けているのかもしれませんが、それ以外のことに焦点を当てれば、私よりも力を持っている人はたくさんいます。彼らの持つその力を、最大限に引き出していけるかどうかが、育成のカギなのです。
例えばですが、「あなたの言うことであれば、100%YESですよ」「君に全部任せるよ」そう声をかけることも少なくありません。それは、信頼しているということ、あなたの力を認めているということ、それを発揮するために最大限の協力を惜しまないということを伝えているのです。しかし、もちろんですが、これは手当たりしだいに言えばいいというわけではありません。前提として、任せるためには、本人にその力があること、そしてその社員を深く理解していることが求められます。どんな強みを持っているのか、どんなキャラクターなのか、何を求めて仕事をしているのか、どんなこだわりがあるのか、どんなキャリアを描いているのか、何が得意で何が苦手なのか、目標達成のためにどんなサポートがほしいと思っているのか。それくらい具体的に相手のことを把握できていて初めて、「任せる」ということが可能になるのだと私は思います。

「伝える」だけでなく「聴く」努力をする

これまで数多くの企業の変革をサポートしてきましたが、社員に対して思いを伝えている経営者の方はたくさん見てきました。しかし、社員の話を親身になって聴いているという経営者は本当に少なかったのです。伝えたいことがあるのはもちろんわかります。トップがしっかりと未来を指し示し、仕事の基準を伝えなければ、経営は成り立ちませんので、それは必要なことです。ただ、一方的に伝えるだけでは距離が離れていきます。なぜなら、一人ひとりに、その人にしか無い考え方があります。その考え方を尊重せずに、一方的に指示出しをしても、内発的な動機は育まれにくいのです。腹を割って本音で話してもらえる関係性をつくり、時間を取ってしっかりと聴きましょう。その上で、一人ひとりに合わせて組織が目指す未来、理念やビジョン、志を語るのです。指導的立場であればあるほど、自分についてきてくれている人たちを知る努力が求められるのです。

幹部選びは、能力よりも理念共感を重視する

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、私は44歳のときに、当時専務を務めていた会社を倒産させた経験があります。今振り返れば、当時はあまり社員を知る努力をしていなかったと思います。むしろ会社の方針を語り、私の希望を伝え、能力がある人を昇進昇格させていました。どんどん組織を拡大しましたが、思うように理念が浸透しませんでした。結果、お金をより稼げる会社を求めて、一人前に育てた社員がどんどん離職していったのです。そうして、内部分裂が起こり、組織が崩壊したのです。だからこそ、私には一つの確信があります。それは、育成というのは絶対に急いではいけないということです。とくに幹部に上げる社員は、能力ももちろんですが、理念に対して深く共感していることを何より重視しなければなりません。時間をかけて社員のことを知り、理念を伝え、ともに目指す方向性を定めていく。そして、心から信じて仕事を任せていくのです。その過程のなかで、理念の浸透が果たされていくのです。焦らず一歩ずつ、歩んでいきましょう。

佐藤 英郎
明治大学法学部卒業後、同大学法制研究所を経て、研修コンサルタント事業に35年携わる。年商40億の研修会社に育て上げた後にコンサルタントとして独立し、2003年10月にアチーブメント株式会社の取締役に就任。コーチングの世界では最高タイトルである、国際コーチ連盟「マスター認定コーチ」の一人であり、33年間で延べ約21万名の経営者・管理職・営業職の研修を担当している。