10人雇えば7人離職 「見て盗め」が当たり前の町工場から 教え合いの文化で生産性向上 14年連続黒字 一人当たりの自己資本額7倍を達成

坂元鋼材株式会社
創業:1935年 売上:4.4億円 代 表:坂元正三 従業員数:15名
本社所在地:大阪府大阪市西区九条南3丁目28-4
事 業 内 容:ガス、プラズマ、レーザーによる鋼板の熔断加工・鋼板2次加工・鉄鋼全般

 

坂元鋼材株式会社 代表取締役
一般財団法人日本プロスピーカー協会 認定シニアプロスピーカー

坂元 正三

「町工場の長男」として生を受けるも、学生時代よりジャーナリズムを志し、時事通信社に入社。新聞記者として経験を積むが、父である先代社長が重病に陥ったのを機に家業に戻る。1999年より代表取締役に就任し、リーマンショックの大赤字などの困難を乗り越え、14期連続の黒字を達成・財務体質を改善。

Before●10人雇えば7人離職
 我流マネジメントで10年苦戦
●見て盗め、気に食わない者には
教えない
職人の世界
●リーマンショックで赤字へ転落
 自己資本比率10%
After社員が内発的に仕事に取り組む
教え合いの文化で生産性向上
 業界平均120%の給与
自己資本比率70%
 14年連続黒字

新聞記者から経営者へ
我流マネジメントで苦戦の10年

1998年、最愛の父が病に倒れたことをきっかけに、私は新聞記者から三代目経営者になりました。バブル崩壊から約10年、景気回復の兆しは見えず当社の売上1位・2位を占めていた取引先が倒産。経営もマネジメントも素人の私は来るもの拒まず採用し、遅刻・無断欠勤、気に食わないことがあると先輩の胸ぐらをつかむ社員と様々な問題が発生しました。10人雇えば7人離職するなか、先代の頃からの社員のおかげでどうにか会社が回り、私は人を「育てる」意識が薄かったように思います。あるとき4人目の子どもを授かった社員から「社長、産んでいいですか?」と一言。この会社で家族6人暮らしていけるのかを暗に問われたこの質問は、胸に突き刺さりました。
その後、リーマンショックで2009年度は9千万円を超える大赤字、自己資本比率は10%に転落。業種にもよりますが、社員一人当たりの自己資本額は1000万円あると一安心といわれるなか365万円となり、次に何か起こると債務超過になりかねない状況でした。

ビジョンを言語化し「ついていきたい」と
思われる自分と会社づくり

現在はコーポレートブックに企業理念・ビジョン・経営方針などをまとめ社員に配布している

まともな会社をつくりたい。そう思っていた2010年『頂点への道』講座を受講し、選択理論を学びました。リードマネジメントでは「ビジョンを示す」リーダーシップが重要だといいますが、当時は経営の目的もビジョンも不明確でした。
誰のために、何のために、なぜこの会社が存在しているのか。これから何を目指すのか、真剣に考えました。「こんな小さな会社でも社員の家族を入れたら五十人が飯を食っている」。父の言葉を思い出し、私も父のように愛・感謝・誠実を大切にし、会社経営を通して縁ある人を豊かにできる自分になりたいと思いました。
そして小さくとも日本を代表する超一流の企業をつくり、日本社会の発展に貢献するという企業ビジョンを言語化。会社を「永続」させ、どんな不況が来てもビクともしない強い会社、人の育つ良い会社をつくると決めました。
社員とも「どんな人とともに働きたいか?」逆に「どんな人とは働きたくないか?」を議論し、目指す組織の方向をすり合わせていきました。

欲求が満たされる組織づくりで
社員の主体性を引き出す

選択理論では、人は欲求を満たすために内側から動機づけられて行動すると学びます。当時は専門技術が属人化し、有給休暇が取りづらく「生存の欲求」が満たされない状況でした。また、「見て盗め」が当たり前の職人の世界、気に食わない者には教えないなどと人間関係も課題でした。
一人ひとりの専門分野が広がれば、休みが取りやすくなり生産性も向上、経済的にも社員を豊かにできます。そこで毎月勉強会を開き、社員に決算書も公開しました。数字の見方を教えながら、なぜ財務が強くて人の育つ良い会社をつくりたいのか、それにはどのくらいの力が個人に求められるのかを示していったのです。すると徐々に受け入れられ、社員同士が専門技術を教え合うようになりました。
また朝礼では感謝タイムを設け、教わったことや休暇中にサポートしてもらったことの感謝を伝え合いました。
結果、残業が少なく休みも取りやすくなり「教え合い」で人間関係もよく、仕事で認められる、欲求が満たされる職場になっていきました。社員は益々主体的になり、複数の機械を扱えるスペシャリストの集団へと成長しました。

「教え合い」の文化を仕組みに落とし、
小さくとも日本を代表する超一流の企業を目指す

現在は年に3回、評価シートを基に社員面談を行っています。シートでは主要業務・業務知識・勤務態度について合格レベル・人に教えられるレベルと基準を言語化。「人に教えられるレベル」を最上位に置くことで、教え合いの文化づくりにつながっています。面談では本人が自己評価をした後、上司・私と3人で基準をすり合わせ、次の4か月に挑戦することを目標設定し成長を支援しています。
結果、従業員数は変わらず、14年連続黒字・一人当たりの自己資本額は2600万円と7倍になりました。年収も業界平均の120%となり、4人目の子どもを「産んでいいですか?」と言った彼は、工場長として大活躍しています。
人が育つことに喜びを感じる一方、今年は10年ぶりに2名が退職しました。組織は生き物であり、毎日試行錯誤であることに変わりはありません。これからもリードマネジメントを学び続け、小さくとも日本を代表する超一流企業を目指してまいります。

Checklist
1.リーダーシップの技術
□企業理念・ビジョンを言語化し、未来を示す
2.個人の成長支援の技術
□年3回の個人面談をとおして成長を支援する
5.仕組み化する技術
□朝礼に感謝タイムを設ける
□評価シートをとおして「教え合い」の文化を強化する