大恐慌、パンデミック、技術革新。ナポレオン・ヒル博士が成功者たちを取材した98年前のアメリカは、いまと驚くほど似通った「激動の時代」でした。AIの進化や社会構造の変化が著しく、これまでの正解が通用しなくなっているいま、私たちは何を指針にすべきなのか。時代背景から紐解いていきます。
『THE LAW OF SUCCESS』の著者ナポレオン・ヒル博士と、同書に登場する成功者たちが活躍した約100年前のアメリカは、まさに「大激変の時代」のさなかにありました。
南北戦争(1861~1865)の終結による再統合を経て、1880年代に入るとアメリカは急速な工業化と経済成長を遂げ、一躍世界一の工業国へと変貌。第一次世界大戦(1914~1918)を機に、経済・政治・軍事のあらゆる面で世界のリーダーへと昇り詰めました。1920年代には「黄金の20年代」と呼ばれる空前の好景気が訪れますが、その繁栄の影では常に不況の足音が響いていました。例えば1907年の恐慌では株価が50%も下落し、ヒル博士自身も職と希望を失ったといいます。
そして1929年、史上最悪の大恐慌が勃発。1933年までのわずか数年の間に、アメリカの実質GDPは30%減少し、約1万もの銀行が閉鎖されました。失業率は3.2%から24.9%へと急上昇し、混乱は瞬く間に世界を呑み込む世界恐慌へと発展したのです。
こうした経済の荒波の一方で、ビジネスの前提を覆す破壊的な技術革新も進んでいました。1913年、フォード自動車がベルトコンベアを用いた移動組立ラインを導入し、「T型フォード」の大量生産を開始。生産効率の飛躍的な向上は、それまで職人が時間をかけて一台ずつ組み立てていた旧来の方式を瞬時に過去のものとし、変化に対応できない多くのメーカーを淘汰しました。
また、1918年には「スペイン風邪」がパンデミック化。全世界で6億人が感染し、アメリカだけでも約67万5000人の命を奪いました。この未曾有の事態による労働人口の喪失は、国家経済に計り知れない打撃を与えたのです。
昨日と同じ平穏な日が、今日も繰り返されるとは限りません。誰も予想しない経済・社会の変化や技術革新、パンデミックなどによって、従来のやり方や常識が突然通用しなくなった時代でした。
98年前の激動期と同様、現代の私たちもまた、予測不能な変化の渦中にいます。2008年のリーマンショック、2011年には東日本大震災が発生し、1ドル=70円台をつけた円高不況などが起きています。そして2020年の新型コロナウイルスの世界的大流行は、既存の経済秩序や生活様式を根底から揺さぶりました。さらに、デジタル技術の爆発的な進化により、生成AIが文章作成やデータ分析、企画立案といった、これまで「人間独自の領域」と思われていた知的作業が、瞬く間に自動化されようとしているのです。
これは、単に作業が速くなるという「効率化」の話ではありません。勝負のルールそのものが根底から覆る「ゲームチェンジ」なのです。かつてベルトコンベアの導入が「職人の技」の価値を変えたように、今、「知識を蓄え、正確に処理する」というスキルや努力の価値そのものが変わりつつあります。98年前も今も、技術革新によって、ビジネスの「勝ちパターン」は目まぐるしく変化しているのです。
『THE LAW OF SUCCESS』の執筆にあたり、ヒル博士が取材した500名以上の成功者のなかに見た成功の原理原則は、何だったのでしょうか。
それは、大恐慌をはじめとする激動のなかで、逆境や恐れを乗り越え、ピンチをチャンスに変えようとする成功者たちの、揺るぎない信念と行動です。「あらゆる失敗にはそれと同等の恩恵の種が含まれる」(第1巻 P340より引用)。この真理を何よりも心の底から信じ、逆境の先に必ず成功があると、諦めず実行し続けることでした。これは98年前に限ったことではないのかもしれません。私たちはいま将来の予測が難しい不確実性の「VUCA」の時代に生きています。先の見えない状況のなかで「真の成功」を手に入れるための手がかりが、時代を超えても変わらない原理原則のなかにあるのではないでしょうか。
