強く踏み込み、深く聴く〜成果へのこだわりが部下の力を引き出す〜

元北海道日本ハムファイターズ 内野守備走塁コーチ兼作戦担当 白井一幸

上司が責任を持つべきは「部下の成果」である

例えば、練習で全力を出していない選手がいるとします。
そんなときにどう声をかけますか?

私は「お前は良いかもしれないけれど、チームメイトはどうするんだ?お前が本気を出さずに試合に負けたとして、彼らの分まで責任が取れるのか?」と、覚悟をもって踏み込みます。

なぜならば、コーチの仕事とは「選手を勝たせること」であり、本気で打ち込まない限り、勝てる実力は身につかないからです。
だからこそ、第一に「伝えるべきことを伝え続ける姿勢」が必要不可欠です。

たしかに、指導のプロセスで嫌われることもあるのかもしれません。
しかし、それでも伝えます。
一時的に好かれるコーチよりも、今は嫌われても成果を出した先に感謝されるコーチこそ、本物だと私は考えています。

「正しい技術指導」と「本人の納得感」の両面性

しかし、多くの指導者が陥りがちな過ちもまたここにあります。
それは「指導する責任」を履き違えてしまうことです。
「いかに強い指導をするか、どれだけコーチが頑張っているか」に執着してしまうのです。

大切なのはコーチが納得感を得ることではありません。
選手が成果に向かって、主体的に行動するようになることです。

だからこそ、良いフィードバックに欠かせないもう一つの要素として「選手の立場に立つこと」が必要なのです。
徹底的に観察をして、相手を知り、理解すること。
それにより選手が素直に行動しようと思える「心に響くフィードバック」ができるようになります。

言い換えれば「相互のコミュニケーションが大切」ということです。
伝える一方ではなく、聞く一方でもありません。
良い指導とはコーチングとティーチングがバランスを取って上手く調和されている関わりを指します。
その際に技術(指導者が持つより成果につながる観点)を伝えることと、選手の感覚(納得感)をしっかり聞くこと。
その双方が、本人の主体性を引き出すうえで必要なのです。

どれだけ良いことを伝えても本人に受け取る意志がなければ無駄に終わります。
その意志を作るのが主体性であり、主体性を引き出すのが、成長への納得感なのです。

認めながら改善を促す!

そうは言っても、結果が出ずとも、「私は頑張っているんです!」と主張をする選手は少なくありません。
本人は頑張っているつもりでも私たちからすれば、改善点が山ほど見つかります。
そんなときに行動変容を促すには、「認めること」と「改善を促すこと」の両方から関わる必要があります。

「本当に頑張っていると思う。俺も君は誰よりも頑張ってると思う。でもだからこそ君には成功してほしいんだ。頑張っているのになぜ成果が出ないか、その原因にフォーカスしようぜ!今やってること考えてみよう。それで結果出てる?どこか問題ない?」
私だったら、こう声をかけます。

世の中の「上司」と呼ばれる人たちを見ると、「認めるだけで終わる人」か「改善を促すだけで終わる人」がとても多いです。
しかし、どちらかだけだと、甘やかすか嫌われるかで終わってしまいます。
両方使うことが大切なのです。

選手の立場に立って、本人の頑張りを承認したうえで、より成果を出すためにどうすればいいかを一緒に考える。
そうすることで、選手もスムーズに前を向いて、努力し続けることができるようになるでしょう。

 

白井一幸(しらい かずゆき)
駒澤大学を卒業後、1983年ドラフト1位で日本ハム入団。1987年ベストナイン、ゴールデングラブ賞受賞、1991年リーグ打率3位、最高出塁率を記録。現役引退後日本ハムの球団職員となり、二軍総合コーチ、二軍監督を経て、2003年から一軍ヘッドコーチを務め、リーグ優勝2回、日本一1回を獲得。2014年より北海道日本ハムファイターズ 一軍内野守備走塁コーチ兼作戦担当を任され2016年に10年ぶりの日本一に輝く。JPSA認定ベーシックプロスピーカーとして全国で講演活動を行う。著書として『メンタル・コーチング潜在能力を最高に発揮させるたったひとつの方法』『わが子を一流選手にするメンタル・コーチング』を刊行。