伝えるのは対等の立場〜関わり続ける覚悟が行動変容を生む〜

株式会社豆子郎 常務取締役 田原文栄 

「目的」に対する納得感で受け手が素直になる

私たちの会社は、10代から80代まで、幅広い年齢の社員がいます。
経験や習慣はもちろん、考え方までが十人十色なので、仕事をすると、自ずと価値観のズレが生まれます。
そんなときは、お互いの正しさを主張し合うのではなく、組織のゴールを確認し、現在地をきちんとフィードバックすることが必要不可欠なのです。
その分、フィードバックの質には、とくに注意を払っています。

たとえば、お客様にお茶を出すときに、年長者は「急須」で入れるのが常識。
しかし、若者は「ペットボトル」が当たり前です。

「急須で出すのが正しい」と年長者が主張をしたところで、素直に受け入れる若者はあまりいないでしょう。
そんなとき、年長者から若者へのフィードバックは、「目的」をしっかり伝えてもらうように指導しています。

「たしかにペットボトルのほうが早いし、簡単だよね。でもお客様の立場に立って考えてみたらどう?お湯の温度や濃さに配慮して手間ひまかけてお茶を出してくれたとしたら、とてもうれしいと思わない?急須でお茶を出すのは、そのおもてなしを表現するためで、それが会社の目指してるサービスクオリティだよ。とすると、今の行動はどうだったかな?」と伝えます。

「作業の目的」や「そもそもの組織の理想」を再確認し、そのうえで、若者の考えを尊重して年長者がお手本を見せます。
それを真似て、お客様に喜んでもらえた感動を実際に体感してもらうようにしています。

上司のスタンスが決めるフィードバックの質

しかし、一番重要なのは「対等の立場」に立つことです。
フィードバックは、「ダメ出し」ではなく、相手の成長のために行うことであり、ともに目的を達成するための情報提供なのです。
「相手をよくしてやろう」、「こうやったらもっと良くなるのに!」という自分の正しさを伝えるスタンスで関わると、間違いなく部下は素直に受け取れないでしょう。
あくまで対等の立場で、プラスの効果を与える情報提供をすることがカギなのです。

言葉選びや伝え方以前に、そのスタンスの違いが、フィードバックの質と行動変容を促せるか否かの違いを決めていると思います。
上司である私たちがまず着目すべきは「部下の存在」よりも、「関わるスタンス」なのです。

関わり続けるという在り方

上司であっても「完璧な人間」は存在しません。
フィードバックしても意図が伝わらず、部下との関係が壊れることもありえます。
フィードバックとは、それだけエネルギーと勇気が必要なのです。

では、いかに現場で取り組めばよいか。

私は「試行錯誤」の連続だと思っています。
人と人とのコミュニケーションは、理論では変わりません。
実践と振り返りと改善、この繰り返しに尽きます。

そこで私が意識しているのは「関わり続ける覚悟」をもつことです。
上司が「自分からは諦めないこと」や「部下ができると信じて関わること」に集中できたとき、きっとフィードバックに対しても前向きにチャレンジできるようになっていくでしょう。

新入社員でもベテラン社員でも、年齢・立場にかかわらず、親身に寄り添って人材育成をしている。
新入社員でもベテラン社員でも、年齢・立場にかかわらず、親身に寄り添って人材育成をしている

 

田原文栄(たはら ふみえ)
株式会社豆子郎創業者田原美介の孫として山口に生まれ育ち、1995年同社へ入社。現在は常務取締役として、営業部門と採用育成部門の最高責任者を兼任し次代を担う経営者として採用と育成に取り組んでいる。理念採用は2011年より本格導入し、2013年度・2014年度の2年連続で日経就職希望ランキング(九州・沖縄・山口地域版)へランクインをする。人材の採用と育成手法について多方面からの反響があり、大学や企業経営者向けの講演講師としても多数活動している。