「デザイン」が仕組みに「魂」を宿らせる

自社にマッチし、社員の力を最大限に引き出していく人事制度を作り上げること。そのスタートは言うまでもなく「経営者」の思考から始まります。何をどのように考え、その第一歩を踏み出していくべきか、青木が解説いたします。

事業目的から逆算した経営デザインが全ての原点

仕組みを作ると聞くと、「やり方」をイメージする方が少なくありませんが、良い仕組みの本質は「きれいなやり方」ではなく、「目的を果たせること」にあります。ごくごく当たり前のことですが、これを徹底することは意外にも難しいです。なぜならば、そのためには明確な経営の目的と、そこから逆算された経営戦略が必要です。そして、その経営戦略を果たしていく上で、「どのような社員が理想なのか」「その社員をどのようなプロセスで育成していくのか」といった、全体のデザインが欠かせないからです。数個のブロックで積み木をするのであればよいのですが、ビルを建てるのであれば設計図を描く必要があります。設計図なくして、流行りの細部の部品にこだわったところで、安定した立派なビルが建つはずがありません。これは人事制度設計においても全く同じことが言えます。つまり、「自社は誰のために、何のために、なぜ存在しているのか」という問いに対する明確な答えを持つことです。そしてその事業目的を果たすための戦略を描くのです。その戦略があって、ようやく、「どのような組織を作るべきか?」という議論ができるようになります。こうしたデザイン、すなわち自社が発展していくための設計図なくして、人事制度を作ろうとしても、本質的な仕組みが出来上がることはありません。

一番大切なのは「育成」につながるということ

これまでも多くの経営者の考えに触れてきましたが、なかには社員を監視し、サボっている社員に罰を与えるために、人事制度を作ろうとしている方もいます。間違っているとは言いませんが、外から刺激を与えて社員を変えようとする「外的コントロール」のアプローチです。長期的には会社や経営陣に対する信頼が失われ、組織が衰退してしまいかねません。
人事制度設計において最も大切なのは、社員が内発的に育つ仕組みであることです。いまいる社員に焦点を当てて変えようとするよりも、理想とするモデル社員の条件を明確にし、既存社員がそれを目指したいと思える状態を作ることです。その条件を、マインド・スキル・ナレッジに分けて定義しましょう。とくに、スキル・ナレッジもさることながら、マインド面の価値観教育を果たせる仕組みにすることが大切です。例えばアチーブメントでは、自分さえ良ければいいという利己的な価値観の持ち主は、成果を出していても、昇進昇格をさせることはありません。管理監督者や部門長・執行役員へと上がって行けるのは例外なく、仲間に尽くし、会社全体のことを考えて行動できる利他的な人です。これも抽象的な概念ではなく、アチーブメントフィロソフィーという7つの行動規範を設けたり、判断力・実行力・リーダーシップという3つの観点で役職に必要な人徳のレベルを定義している昇格審査を設けたりしています。上に上がっていきたい社員にとって、期待されていること・課題・必要な自己変革ポイントがわかるようにしています。この情報は平等に開示されているので、求める社員はとことん求めて、自分自身のキャリアをデザインしていくことができるのです。強制や罰則などではなく、仕組みを通して内発的動機付けを促していくということです。

アチーブメントフィロソフィー

1達成
「私たちは自己の定めた目標に対しては100%の達成を誓います」

2責任
「私たちはやるべきことをやるべきときに、自己の感情を乗り越えて責任をもって仕事をやりきります」

3情熱
「私たちは何事に対しても妥協することなく情熱をもって取り組みます」

4協力
「私たちはわが社の目標達成のために必要なことなら喜んで何でも行います。すべてが私のやるべき仕事です」

5スペシャリティ
「私たちは自己の職務に対してプロフェッショナルとしての自己を確立しています」

6挑戦
「私たちはさらなる可能性に向かって挑戦し続けます」

7規律
「私たちは組織の規律を守ることで、お客様と会社と仲間を守り抜き、世界最高のチームを創造します」

デザインから一貫した思いが社員の心に火をつける

実際に人事制度というのは、しっかり運用がされてこそ意味があるものです。どれだけ立派な仕組みを作ったところで、現場に浸透せずには機能しません。そこで経営者がすべきこととは、制度の背景にある意図や思いを伝えることです。自社の方向性、理想の人材像、戦略などを経営者が熱弁することが大切なのです。
アチーブメントも、大きな制度の転換を迎えるタイミングでは、必ず私が直接全社員にメッセージをします。「みんなにもっと幸せになってほしいと心から願っている。今回の制度改定の目的は、一人ひとりの社員にもっと自己実現を果たしてほしいからであり、そのための決断である。ぜひこの背景を理解して、みんなでより良い会社を創り上げていってほしい」と。変更点を知らせる機械的なアナウンスではなく、「思い」を伝えることが大事です。それも、一度ではなく何度も何度も伝えます。経営者が心の底から社員のことを信じていて、顧客・社員・社会にとって良いと100%純粋な気持ちで下した決断であれば、きっと伝わるはずです。
人事部門に任せることは簡単ですが、経営者が本気でなければ社員もなかなか本気にはなれないと思います。常にそのようなリーダーシップを発揮し続けて、会社全体の雰囲気を作っていくことです。これも経営者に求められる役割です。ぜひ良い経営をともに実現していきましょう。

青木 仁志
アチーブメント株式会社 代表取締役会長 兼 社長
アチーブメントグル―プ CEO
北海道函館市生まれ。若くしてプロセールスの世界で腕を磨き、数々の賞を受賞。1987年のアチーブメント株式会社設立以来、44万名以上の人材育成と、5,000名を超える経営者教育に従事し、理念経営を志す企業を数多く輩出。講師を務める『頂点への道』講座スタンダードコースは、28年間で700回毎月連続開催を達成したロングラン公開講座であり、新規受講生は3万6,574名にのぼる。現在は経営者を対象としたアチーブメントテクノロジーコース特別講座の講師を務める。35万部を超える『一生折れない自信のつくり方』シリーズを始め、累計62冊の著書を執筆。

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