手放した大きな売上、得られた爆発的大ヒット

株式会社ルバンシュ 代表取締役 千田和弘

近年高まり始めた、消費者の安全志向。しかし、25年以上前から、「食べられるくらい安全な化粧品」というコンセプトを基に、自然派化粧品を開発してきた企業が株式会社ルバンシュだ。その独自路線と商品クオリティからメディアの取材が殺到するなど、業界不動の地位を確立している。同社の発展の過程にあったのは、代表の千田和弘氏の2度に渡る「目の前にあった大きな売上を手放した」決断。それによって得たのは爆発的ヒット商品と、一人あたりの経常利益額が上場主要メーカーを抜くほどの業界トップクラスの生産性であった。千田氏の先見性、そしてぶれることのない判断軸に迫った。

業界の〝普通〟は消費者の〝異常〟

当社の社名、「ルバンシュ」はフランス語で〝復讐〟という意味を持ちます。
これは創業から変わらない、既存の化粧品業界の在り方に一石を投じたかった思いが込められています。

私が会社を設立したのは25歳のとき。
それまで勤めていたのが食品研究会社という化粧品とは全くジャンルが違う世界でしたが、ある時、健康食品メーカーから、化粧品の開発依頼を受けたことが始まりでした。

当時、化粧品に関しては全く知識もありませんでしたので、まず初めに行なったのが既存化粧品の分析。
しかし、調べるうちに、その実態に愕然としたのです。
それは体内に入れると害があり、食品では使用禁止とされている成分が、当然のように化粧品に使用されているという事実。

確かに、化粧品は口にするものではありませんが、肌や唇に直接触れるため自然と体内に入り込んでしまいます。
さらに化粧品を付けた母親の肌をお子様がなめることもある訳ですから、たとえ微量でも体に害があるものは非常に危険です。

そうした原料が化粧品に使われている事実は、化粧品業界では〝普通〟なのかもしれませんが、食品業界にいた私にとっては〝異常〟でした。

「これまで誰も作れなかった、安全で、かつ消費者に満足してもらえる化粧品を世に送り出さねばならない」

怒りにも似た湧き上がる「使命感」とともに、現在の会社を立ち上げました。

大きな売上を捨て、手にした大ヒット

しかし、創業から10年はその熱意と裏腹に下請けとして厳しい時代が続きました。
化粧品の原料として使えそうな食品原料を使用するには、厚生労働省の認可が必要。
そのプロセスでは膨大な試験と資金がかかります。

創業から数年間は、食品として認められていない成分で化粧品を作る悔しさも味わいました。
企業の従業員に向けて商品説明をするなど、機会があれば文字通り全国どこにでも飛んでいきました。

今から約25年前のそんな時代に受講したのが『頂点への道』講座。
自分の進む道は間違っていないと確信が得られました。

しかし、セールスに関しては商品に対する自信が強いあまり、自分の話したいことを話していたと気づきます。
その時学んだ、「相手のニーズを商品を通して叶える」というセールスの姿や、経営者としての「在り方」は今でも指針としています。

転機となったのが、創業から10年目のこと。
資金も徐々にたまっていき、いよいよ理想の商品開発ができる状態が整いました。

そこで着手した商品、それがリップクリームでした。
しかし、周囲からは「理解できない」という声が数多く上がります。

なぜなら化粧水のような年間売れる商品、かつ高価な商品なら大きな売上が見込まれましたが、リップクリームは季節性の商品で安価なもの。
今の会社基盤で、それも10年の忍耐の期間を経て取り組む商品としては理解されない行動でした。

しかし、口に塗っても安全なリップクリームこそ、私の使命感を最も具現化した商品であり、ルバンシュのコンセプトを届けるのに最適な商品。
「これがヒットしなければ、私たちは社会から必要とされていないのだ。その時は潔く会社をたたもう」という覚悟で開発を開始しました。

そして完成したのが、待望の食用成分100%のリップクリーム、『ベジタブルリップ』でした。

いざ販売を開始してみると、そのコンセプトに共感が巻き起こり、爆発的な大ヒット。
累積100万本以上の売れ行きを見せるとともに、結果としてルバンシュの名が業界に広がる契機となりました。

開発時に、私が創業時のコンセプトから逸れ、目先の売上に目を向けた商品開発をしていたら今のルバンシュはあり得ません。
口に入っても安全なリップとハンドクリーム。
商品には同社が抱き続ける〝使命感〟が込められている。

口に入っても安全なリップとハンドクリーム。商品には同社が抱き続ける〝使命感〟が込められている。
口に入っても安全なリップとハンドクリーム。商品には同社が抱き続ける〝使命感〟が込められている。

「自社はどうあるべきか」からの判断

創業から20年目にさらなる転機が訪れます。
売上が伸び、無借金経営へと経営基盤が安定したタイミングで、私は化粧品の新たなOEM(相手先ブランドによる生産)を止める決定をしました。

しかし、ベジタブルリップの時と同じように、周囲から上がったのは懐疑的な声。
なぜなら、これまで手がけ続けていたOEMは、売上の約8割を占めていたからです。

なぜ売上を下げてまで撤退したのかと言えば、〝自社の理想〟に立ち戻ったからでした。
私たちはあくまで「研究開発型企業」。
創業時のコンセプトをもとに、自分たちが本当に顧客のためになると思う商品開発に集中したかったのです。

さらに言えば、OEMに注力すると、どうしても相手の要望に応えようとするあまり、社員の残業時間も増加していました。

私たちの企業理念や行動指針をまとめた当社のクレドには「心の〝なかまで〟生き生きと」と書いてあります。
〝なかまで〟には「中まで」と「仲間で」という2つの意味が込められています。
社員が仲間として繋がり、自らの生活も充実できる状態を作りたかったのです。

当初は周囲から反対もあったOEM撤退ですが、自社のペースで商品開発に集中したことで、結果的に社員の残業時間は一か月平均40時間から7.5時間まで減少しました。
有給休暇消化率は76%まで向上し、出産率も上昇。
2017年には自己資本比率は81%となりました。

確かにOEMから撤退したことで、売上は低迷しています。
しかし、経営基盤が安定した今だからこそ、創業の精神に立ち返り、目先の売上ではなく足元を見つめ、社員が幸せになる経営へとシフトしていくことが私の目指すべき企業の姿と考えています。

こうした結果から、お陰様で、2014年には『日本でいちばん大切にしたい会社大賞』の『審査委員特別賞』をいただきました。
一見すると売上を下げる、ベジタブルリップの開発やOEMの撤退も、結果的に社会的認知や社内の生産性向上に繋がりました。

私はこれを見越していたというよりは、短期的な視点ではない、「自分たちが大切にしている価値観」「理想像」から逆算した判断を行ったことで生じた現象だと思います。

これからも創業時に抱いた使命感を〝メッセージ〟として商品に込め、顧客に、そして社会に届けていきます。

 

取り組んだこと
◦高い売上が見込まれる通年販売商品ではなく、あえて一時的な売上となる季節性商品の開発に着手
◦売上の大半を占めていたOEMからの撤退

⬇︎

得られたこと
◦業界初の、食用成分100%のリップクリームを開発し、通販雑誌などで累計100万本を超える大ヒット。業界内での自社ブランディングに大きく貢献
◦残業時間の大幅削減や、有給消化率が向上し、社員が働きやすい環境

 

千田 和弘(せんだ かずひろ)
1965年石川県生まれ。食品研究会社での研究職を経て、25歳で株式会社ルバンシュを設立。「食べられるくらい安全な化粧品」をコンセプトに、高品質な化粧品の研究開発を行っている。地方の中小企業でありながら、メディアに様々取り上げられ、会社説明会では全国から学生が集まるほどの人気企業。盤石な経営基盤を実現し、無借金経営を7年以上維持、さらに自己資本比率は81%を超える。2009年には中小企業庁「元気なモノ作り中小企業300社」に選定され、2014年には「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」にて『審査委員会特別賞』を受賞。また、社員のチャンスの創出や自らを律し続けることを目的に4年に一回社員投票で決定する「社長選挙制度」をはじめとした社員視点の様々な制度を構築。さらに「税金を納めるのは社会貢献」という方針で、社員一人あたりの納税額を算出し、社会貢献企業としての誇りを社員に伝えるなど、理念経営を貫き続けている。